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現場には一番乗り、周囲への細かい気遣い……松田優作も惚れた俳優・渡哲也の記憶

握手で受け継がれていく“石原軍団”魂

2020/08/23
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渡さんに熱い思いをぶつけた俳優・松田優作さん

 シリーズ第2作『大都会 PART II』(’77年)では、渡さんと松田優作さんの共演が当時話題を呼んだ。2016年にBS11で『大都会』シリーズが放送されることになり、その記念特別番組に構成と番組インタビュアーで筆者も参加させていただいた際、渡さんに当時の思い出話を伺うことができた。

松田優作さん ©文藝春秋

 優作さんは、撮影中の休憩時間も、呑みの席でも常に「なんで渡さんは映画、やんないんスか?」と言い続けていた。「渡さんは映画に出るべき。いつまでもテレビなんかに出てちゃダメ。ここまで石原プロに操を捧げる必要はないっスよ」とまで言い、渡さんが「もういい優作、わかった、わかったから」と言うまで、いや言ってもやめなかった。そんな、誰も言ってくれない、言いづらいことをズバズバ言う優作さんの自分への気持ちに、時には涙の出る想いがしたという。優作さんも舘ひろしさん同様、渡さんに心底惚れていたひとりだった。

“大門団長”とのスタジオ一番乗り競争

『大都会』シリーズをさらにスケールアップさせた『西部警察』シリーズは、とかくアクション面で語られがちだが、アクション以外での渡さんの逸話を紹介しよう。

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「大~~門くぅ~~ん」の名調子で知られる、口うるさい係長こと二宮武士役の庄司永建さんから伺ったお話だが、とにかく、どんな早朝の撮影でも、渡さんはスタジオに先に入って、時には自ら西部署セットの掃除までしていたという。庄司さんは劇団民藝の大ベテラン。撮影30分前にはスタジオ入りして、一番乗りを決め込んでいたが、渡さんの出番がある日だけはかなわなかった。

放送開始40周年記念に発売されたDVD BOX「西部警察 40th Anniversary Vol.1 」(ポニーキャニオン)

 あるとき「今度こそ一番乗りになってやろう」と意気込んで、撮影1時間前に日活撮影所のスタジオに入った。ところがセットに着くなり、渡さんが自ら扉をガチャッと開け、「係長、お早うございます」とニッコリ。さすがの庄司さんも「負けた……」と、思い、次からまた30分前の入りに戻したという。

団長はどこに!? スタッフの朝一番の日課とは?

 この渡さんの“現場一番乗り”はスタジオだけに留まらず外ロケでも披露(?)された。やはり早朝で、ロケ撮影の朝。現場に到着した撮影スタッフのひとりが周囲を確認していると、少し離れた場所に停車している1台の車を発見。眠い目をこすってよく見れば、紛れもなく渡さんの自家用車だった。

 その日の渡さんの集合時間の約2時間前のこと……まさかとは思ったが、慌てて監督以下スタッフを呼び、皆で車に近づくとドアが開いて渡さんがご登場。そして、「お早うございます。朝早くからご苦労様です。みなさん、僕のことなんか気にせずに準備を進めてください。僕はお邪魔にならないようここにいますので」と笑顔でご挨拶。そう言われたところで、スタッフ一同、気になって仕方がない。一気に眠気も吹っ飛び、アッと言う間に撮影準備が済んで、その日の撮影は巻きで終わったという。

渡哲也さん(平成6年撮影)©文藝春秋

 もちろん、渡さんはプレッシャーをかけるために2時間も前に来たわけでなく、万が一、自分が遅刻して撮影が遅れるようなことになっては……という配慮からで、そのことを重々理解しているスタッフにも気持ちは充分伝わり、良い意味での緊張感と張りに繋がった。これなどは渡さんのお人柄が、現場の良き“潤滑油”となっていた証だろう。

 ただそれ以降、助監督には渡さんの車を捜す任務が日課に加わり、「渡さんを捜せ!」が朝一の合言葉になったという。