握手が繋いだ石原裕次郎さんの想い
渡さんの心遣いは、生来のものに加えて裕次郎さん譲りもあるのだろう。日活の新人時代、満足に挨拶もしてくれない諸先輩方のなかで裕次郎さんは、自分から立ち上がって自己紹介した上に、握手して激励してくれた。渡さんの裕次郎さんへのリスペクトはそれ以来。自身も舘ひろしさんとの初対面の際、自分から自己紹介して舘さんと握手を交わされた。その瞬間、舘さんも渡さんに付いていこうと思ったそうだ。
先述の、筆者が渡さんの番組インタビュアーを務めさせていただいたときのお話を紹介して本稿の締め括りとさせていただく。このときも収録直前まで渡さんは咳き込まれていたが、収録開始と同時にピタッと咳は止まり、『大都会』のあの話を思い出した。
収録も無事に終わり、憧れの渡さんとマンツーマンのインタビュー収録という、自身にとっては“我が人生の晴れ舞台”ともいうべき大任を果たし、心地よい疲労感に浸り茫然自失状態の私に、渡さんがツカツカと寄って来られ、スッと右手を……一瞬何が起きたのか解らず、また「自分に対してである筈がない」と思った私が周囲を見渡すと近くには誰もいない。「あ、わ、私ですか? そんな……恐縮です」と、思わず両手で握り返すと渡さんが「ありがとう。お疲れ様でした」と、ひと言。
その瞬間、裕次郎さんの渡さんへの握手、渡さんの舘さんへの握手のエピソードを思い出した。それも、相手が大スターやスタッフならともかく、自分のような一介のインタビュアーにまでこの気遣い……“漢(おとこ)が漢に惚れる”とはまさに、こういうことなのだな、と、人生で初めて理解した。
天国で酌み交わす酒はやはり松竹梅?
「この手は絶対に洗わない」と思ったのも束の間、ほどなく洗ってしまったが、そのときの渡さんの手の温もりと笑顔はいつでも脳裏に蘇る。
このたびの渡さんの訃報を聞き、様々な想いが脳裏をよぎり、一瞬、茫然自失となった。だが、裕次郎さんから渡さんへ、渡さんから舘さんへ、そして舘さんからファンのみなさんへ今なお受け継がれている“想い”を後世に残す一助になれば……との思いからこの拙文を書かせていただいた次第。
今はただ、天国で裕次郎さんと渡さんが再会の杯を交わされているお姿を夢想しつつ、慎んでご冥福を祈りたい。