日本を代表する作・編曲家、音楽家のひとりである服部克久さんが、去る6月11日に亡くなった。享年83。死因は末期腎不全だった。

服部克久さん。© 文藝春秋

 フジテレビ系の長寿音楽番組『シオノギ・ミュージックフェア』(’64年~)のテーマ曲や、やはりTBS系の長寿ドキュメンタリー旅番組『ニッセイワールドドキュメント 日曜特集・新世界紀行』(’87~’92年)のテーマ曲「自由の大地」などで知られる服部さんだが、特撮・アニメ番組世代の筆者にとっては三ツ木清隆主演の特撮ヒーロードラマ『光速エスパー』(’67年)の作曲家として印象深い。

 日本で初めて“強化服”という言葉が歌詞に登場する主題歌が大好きで、子供の頃、よく口ずさんでいた……のだが、じつはこの主題歌の作曲は克久さんのお父君・良一さんの作曲だった。克久さんは劇伴(劇中のバックに流れる音楽、通称BGM)の作曲のみを担当していたようだが、編曲もおそらく克久さんだろう。ところどころに“克久節”を感じてならない。この大作曲家父子に拠る、この夢のコラボレーションにはじつは訳があった。

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弱冠22歳にして特撮ヒーロー番組『遊星王子』の音楽を担当

『光速エスパー』の制作会社・宣弘社プロダクション元社長にして、その母体である広告代理店・宣弘社の会長だった小林利雄さん(2007年逝去)に生前お伺いしたお話だが、良一さんに主題歌の作曲をお願いしたのは小林会長だったという。

「僕が良一さんの『東京ブギウギ』(’48年)なんかのファンだったんですよ。だから息子さんの克久さんに『光速エスパー』の作曲を担当してもらえることになったときに、お父様の良一さんにも曲を書いていただけないかとお願いしたんです。そうしたら主題歌を作曲していただけることになって。あの歌はじつに名曲ですよ」(利雄さん談)

『光速エスパー』Blu-ray Vol.1。音楽を服部克久さんが担当した。

 光速エスパーは宇宙を駆けるSFヒーローで、スポンサーである東芝のマスコットキャラクター(デザインはあさのりじ)。かつては全国津々浦々の東芝の小売家電店の店頭に、マスコット人形が飾ってあったものだ。宣弘社プロはこの『エスパー』から遡ること約9年前の’58年にも、日本初の宇宙人テレビヒーロー『遊星王子』を企画・放送。

 この番組の音楽も克久さんが作・編曲しているが、このとき克久さんは弱冠22歳。小林会長に拠ればお父君の良一さんからの強い推薦を受けての起用だったという。じつはこの『遊星王子』も主題歌のみ良一さんが手伝ったという説がある(レコードの歌詞カードは克久さん名義)。もし事実だとすれば、おそらくこのときは、本格的なプロ作曲家としての活動を開始した息子・克久さんへのはなむけだったのだろう。それが奇しくも約10年後、『光速エスパー』でも同じタッグを組むことになったのだ。
 そうなると克久さんは、昭和30~40年代を代表する2大特撮宇宙ヒーロー、『遊星王子』と『光速エスパー』の音楽を父子二代で手がけたことになり、そこに不思議な宿縁を感じてしまう。今となっては真相は藪の中ではあるが……。