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「野球をやりたい。でも明日になったらわからない」BCリーグ・栃木入り、川﨑宗則の流儀

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/06

 近ごろ、ホークスのショートを守る川瀬晃のことが気になっている。

 今季がプロ5年目。開幕一軍は逃したが、延期中の自主練習期間に「体重6キロ増やしました」と土台づくりに成功してプレーの力強さが増した。

 カラダつきは逞しくなったが、球界きっての幼顔はそのままだ。大手新聞社の4コマ連載漫画でお馴染みの「あの子」にそっくり。彼がプロ入りした頃から筆者は勝手に「コボちゃん」と呼んでいる。

 ここ最近は今宮健太の離脱もあって出場機会を増やしている。8月25日のオリックス戦では、プロ初となるマルチ安打をマークして2安打2打点と活躍して、7回零封のエース千賀滉大とともにお立ち台に呼ばれた。これまたプロ初となるヒーローインタビューだった。

 地の底から這い上がってみせた。

 この2週間前、千賀が先発したオリックス戦という同じ状況の試合で1イニング2失策という大チョンボをやらかしていた。それをきっかけに千賀は6失点。川瀬が足を引っ張ったのは明らかだった。

 それでもホークスはその後逆転勝ち。柳田悠岐がお立ち台で「(川瀬に)『お前は悪くない。悪いのは千賀だ』と言いました」という言葉を発して話題を呼んだ。チーム内で千賀がエースだと認められている証拠であり、ホークスの若手がどんな環境でのびのびとプレーできているのかが分かるエピソードになったが、川瀬は眠れないほど悔しかったに違いない。

 野球での失敗は野球でしか取り返せない。そんなストーリーがつながったヒーローインタビューはちょっとベタ過ぎる筋書きだったかもしれないが、それでも川瀬と千賀が一緒に笑顔を浮かべている場面はグッとくるものがあった。

川瀬のダッシュを見て思い出した川﨑宗則の言葉

 ところで、なぜ川瀬のことが気になるようになったのか。それはある日の試合中に、ふと目に留まったシーンがあったからだ。

 ホークスの攻撃がチェンジになる。すると、川瀬は左手にグラブをはめて誰よりも先にダグアウトを飛び出した。そして、ショートの定位置を通り抜けるほどの猛ダッシュで向かっていったのだ。

 すごく気持ちのいい走りっぷりだった。

「あれもトレーニングですよ。3つアウトをとってベンチに戻るときもダッシュ。その往復を1試合で9回繰り返す。それをシーズン通してやれば『18本×試合数』でしょ。もの凄い積み重ねになるんです」

 目からウロコというか、なんてすばらしい考えなのだ、と心を打たれたその言葉を思い出した。

 その声の主は川瀬ではない。かつてホークスのショートを長く守り続けた、川﨑宗則の言葉である。

 なるほど……、やっぱり自分はホークスのショートを見る時に、どこかで川﨑と重ね合わせているのだなと改めて気づいた。

川﨑宗則 ©文藝春秋

 思い返せば、この文春野球コラムペナントレースへの初寄稿作は、川﨑について書いたコラムだった。2018年3月30日に掲載したそのタイトルは【川﨑宗則は「引退」じゃない 「野球から距離を置く」の真意とは】

 その数日前の朝、福岡のスポーツ紙が「引退へ」の大見出しを打ったスクープ記事を一面で報じた。周知のとおり、その当時の彼は自律神経の病気を患い、身体を動かすことを拒絶するような状態になってしまったため、一度野球から距離を置いていたのだった。

 しかし、こちらも自分のルートで取材をかけてみると、野球につながるような本格的なトレーニングではないものの軽めのジョギングなどは継続しており、決して野球選手を諦めていないことが分かった。大手メディアが相手とはいえ黙っていることができずに反論記事を寄稿。その日の午後、すぐにホークス球団が動いて「自由契約による退団」と発表したという経緯があった。