8月最後の旭川スタルヒン球場は1試合だけの開催になった。30日のマウンドに立ったのはともに前日(雨天中止)のスライド登板、有原航平とバンデンハークだった。順位表を見るまでもなくファイターズはCS進出が絶望的、ソフトバンクは首位独走だ。昨シーズンのライバルチームは明暗がくっきり分かれた。春先に日程表を見て、この旭川の頃は一体どうなっているだろうと思ったものだ。どうもなっていなかった。ソフトバンクは大したものだなぁ。内川聖一をはじめ、欠場者が出てもぜんぜん大崩れしない。
だけど、日本最北のナイターで順位通りにことが運ぶかというと、それはわからないというのが野球の面白いところだ。ファイターズは3対1で快勝してしまった。驚いたことに5連勝だ。有原は今シーズンのベストピッチだった。9回4被安打、1失点(99球)の7勝目(7勝11敗)。MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)を挙げるとしたら有原を措いてない。やっと本来の姿を取り戻してくれた。
ちなみに当夜のヒーローインタビューは有原と、来日初ホームランを放ったヤディル・ドレイクだった。ドレイク本人も、通訳のラファエル・フェルナンデスさん(元ヤクルト育成1位!)も不慣れというか初々しくて好感が持てた。が、僕の考える野手のヒーローはドレイクではない。
1番・西川の「ハルキ圧」?
本稿は基本的に西川遥輝最高! とそれが書きたいだけの原稿だ。少し譲っても西川と松本剛の1、2番コンビ最高! と書きたいだけだ。悪いけどドレイクの貢献度はたかが知れている。初回の攻撃を思い出してもらいたい。難敵バンデンハーク攻略に西川(&松本剛)がいかに効いていたか。ていうか、文春野球コラムで僕は西川遥輝についてあまり触れて来なかったのだ。誉めだしたらキリがないからね。
1回裏、1番西川はフルカウントまで見極め、四球を選ぶ。バンデンハークの制球が定まらない。これはつけ入るスキがある。大きくリードを取り、4球目に二盗を決める。西武・源田壮亮と熾烈な盗塁王争いを繰りひろげる今季32個目だ。ちなみに4球目というのは珍しいのだ。今季の盗塁を西川はほぼ初球で決めている。これは次の打者のカウントを不利にせず、作戦の選択肢を狭めないという効果を持つ。初球で決めるというのは絶対の自信を持っているのだ。
じゃ、この盗塁がなぜ4球目だったかという点だが、本人でないのでわかりませんよ、わかりませんが、盗塁後、2番松本のカウントが「3ボール1ストライク」になったというのがヒントじゃないだろうか。走るぞとプレッシャーをかけ、牽制球を投げさせて、バンデンハークの注意を半分、自分に向けた。そもそも制球難で、状態を探りながら投げてるバンデンハークだ。西川ひとりで、無死2塁・カウント「3ボール1ストライク」をつくってしまった。
2番松本は右打ちだ。進塁打の意識だったと思う。変化球をおっつけて1、2塁間を割った。西川は躊躇なく3塁を蹴り、あっという間にホームイン! 電光石火という言葉が浮かんだ。バンデンハークはわずか11球で1点を失った。この「走力で試合を決定づける」能力だ。打席に立って四球を選び、色々あって本塁へ生還するまで、グラウンド全体にずっと「ハルキ圧」がかかっている。松本剛は僕のお気に入りだが、今季「ハルキ圧」のおかげで打たせてもらったヒットがあると思う。そりゃ「3-1」でストライク取りに来るところを打つほうが断然トクだ。