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我々はなぜ“あの涙”に心動かされたのか…カープに上本崇司がいる幸せを考える

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/22
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 突然だが、あなたの贔屓のチームに上本崇司はいるだろうか。「はい」と答えたあなたはカープファンであろう。もしあなたが阪神ファンだった場合、上本は上本でもそれは上本博紀である可能性が高いので、今一度確認してもらいたい。

 私が唐突にこのようなことを聞くわけは、「果たして上本崇司はカープファン以外からどのように見られているのか?」ということがふと気になったからだ。たとえばこれが鈴木誠也とか、森下暢仁とかであれば何となく予想はできる。そのイメージは敵味方の違いこそあれ、恐らくカープファンが抱く印象と大きく変わらないはずだ。しかし上本崇司はどうだろうか。カープファンが知っている上本の魅力が、他球団のファンには伝わっていないのではないだろうか。ということで、他球団ファンに向けて上本崇司をプレゼンテーションしてみたい。

まるで仕事と私生活とを分ける本職のお笑い芸人のよう

 上本崇司の印象とは何か。高校野球ファンならば、「兄・博紀とともに、兄弟で甲子園先頭打者本塁打を放った広陵の一番打者」という印象が強いかも知れない。大学野球ファンならば、2011年の明治神宮大会決勝で愛知学院大学を下し、優勝を決めた明治大学の二番打者という印象が残っているだろうか。

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 上本は明治大学4年時の2012年、ドラフトでカープから3位指名を受けて入団した。背番号は0。入団時に一桁(0を一桁に含めるかは疑問だが)の背番号を付けるのは、カープでは異例のことだ。カープの歴代0番は長嶋清幸、高信二、木村拓也、井生崇光、そして上本の5人のみで、このうち入団時から0を背負ったのは上本しかいない。比較的歴史の浅い背番号00でさえ現在の曽根海成で9人目であることを考えれば、「背番号0」というのはある意味期待の込められた、重みのある数字だということができる。それは「小柄だが俊足で守備がうまく、複数ポジションを守れるユーティリティープレイヤー」という期待であり、上本はまさに適任と思われた。

 1年目の2013年から、「守備固めと代走要員」としての出場が主であった上本。打撃に関して言えば、プロ8年間の通算成績が打率.170、打点5、本塁打0(2020年9月20日現在)というところから察してもらえればと思う。守備もうまいのだが、なぜか肝心なところでポカをすることもあり、例えば2018年7月21日の巨人戦では9回にタイムリーエラーを犯して試合後の挨拶で土下座するシーンも見られた。

 この土下座も含めて、上本が話題になるのは、大抵プレーではなくパフォーマンスの部分であるように思う。オフシーズンに小学校で開催された野球教室に参加し、給食を鼻から食べようとして小学生から冷笑される上本。降雨ノーゲームとなった球場で、新井貴浩のユニフォームを着てモノマネをする上本。パンチパーマから坊主へと目まぐるしく髪型が変わる上本。2018年には、巨人戦で逆転3ランを放ちヒーローインタビューを受ける野間峻祥の「通訳」としてお立ち台に登壇し、野間の代わりに「最高でーす!」と叫んだ(そして後から上層部に怒られ、Tシャツのネタとなった)。一方で普段の生活ではシャイで口下手と本人が語っており、まるで仕事と私生活とを分ける本職のお笑い芸人のようでもある。このように上本はチームのムードメーカーとしての印象が強く、多くのカープファンもその認識なのではないだろうか。

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