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「らいおんず十万石まんじゅう」は「もみじ饅頭」に勝てるか?

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/25
note

もみじ饅頭vs十万石まんじゅう

 十万石まんじゅうは、おまんじゅうはおまんじゅうでも、薯蕷(じょうよ)まんじゅうだ。

 他のおまんじゅうと一味違うところは、こしあんを包む皮の生地には、すりおろした山芋が使われている。そのおかげで、皮がしっとりと仕上がっており、なめらかで香りのよいこしあんとよく調和している。とても和菓子らしい、静かな味。

 ご参考までに、薯蕷まんじゅうそのものは、埼玉独自のお菓子というわけではなくて、日本全国津々浦々、つくっているお店は数多ある。たとえば、東京は新宿の『花園万頭』の店名どおりの名物も、輪郭も十万石まんじゅうに近い、小判、あるいは繭の形の薯蕷まんじゅう。あらたまった席にもふさわしいとされている、比較的、よそゆきの顔をしたおまんじゅうである。和菓子製造技能士1級の実技試験ではこれをうまくつくれるかどうかが問われるそうだ。

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 とはいえ、十万石まんじゅうのお値段はそんなに張らない。つまり、手土産としてはユーティリティープレイヤー。どこに持っていったとしても、胸を張って先方に手渡すことのできるお菓子である。そう、どこに移籍しても成績を残せる選手のような。そういう意味でいうと、銀仁朗は薯蕷まんじゅうっぽい選手だったなあ、などと、これ以上想像を広げるのは、ライオンズファンとしては寂しい気持ちになるからやめておくとしたい。

「らいおんず十万石まんじゅう」を小皿に載せて夫にすすめると、「もみじ饅頭に比べると、地味、玄人好みだね。そういう意味ではライオンズっぽいんじゃない?」と感想を述べてにやにやしている。そして「もみじ饅頭のほうが大きいよ」と言う。そんなことはない、少なくとも、あんこはこっちのほうが多く入っているはず。

手土産としてはユーティリティープレイヤー ©木村衣有子

 味わってみた夫は、こちらの主張を認めた。

「あんこは多いね。あんこ食わせる菓子だ。森(友哉)君みたいだね、小さくてもぎゅっと詰まっている感じ。今年は打撃不調みたいだけどね」

 一言多い。まあ、仕方ない、今年のカープファンはやさぐれているのだから。

狭山茶に感じるライオンズブルー

 お菓子の傍らにあってほしい飲み物、日本茶の話もひとつ。

 メットライフドームにて、茶摘み娘を模した衣装を身にまとった狭山茶の売り子さんから緑茶を買ったこと、ありますか? 少なくとも、見かけたことはあるでしょう。

狭山茶の売り子さん ©中島大輔

 そう、埼玉は関東随一の茶所。その、狭山茶の産地は、西武線に沿って広がっている。狭山茶の栽培地域とライオンズファンの分布図はぴったり重なるといっても過言ではない。

 それに、実は日本茶はライオンズに寄り添ってくれる飲みものなのだ。

 「いいお茶のことを、お茶農家は『青い』って言うんです」

 !

 私の友人Iさんが、狭山茶について書いた記事の中に見つけた、驚くべき一文である。

 Iさんは、入間市にて茶の木を育て、葉を収穫し、蒸して揉んで乾かしてお茶として売るところまでを取材をしに行った。お茶農家の四代目となる青年の言葉には「優れたお茶って、茶葉や水色(すいしょく)の緑色の中に、ほんのり青みがあるんですよね」とも、ある。これから緑茶を淹れるとき飲むときはぜひとも、その中にレジェンドブルー、ライオンズブルーを見付けるべく、目を凝らしてほしい。

 ちなみに、狭山茶というのは品種の名ではない。あくまでも、栽培されている地域を指す。個性のひとつとしては、葉が厚めに育つこと。茶産地としては比較的気温が低いゆえ、そういう風に育つとのこと、寒夜に人が分厚い布団にくるまりたくなるのと同じだそうだと、Iさんは教えてくれた。そんな季節に入る前に、山賊打線が爆発する夜を幾度迎えられるだろうか。

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