正直言って、いちライオンズファン、そして、味噌汁からコーヒーゼリーまで、飲食について書き綴ることを職業とする者として、埼玉西武ライオンズのロゴやチームカラーがさりげなくあしらってあって、ちょっとした手土産として人に渡せるようなお菓子を、これまでにほとんど見かけないことに、不満はあった。
たとえば、巨人なら、ナボナ。オリックスなら、マダムシンコ。そういう、球団と固い絆で結ばれた、地元のお菓子がなかった。
たとえば、私の夫はカープファン。彼はそんなしょんぼりした気持ちになったことはないだろう。カープ坊やをあしらったパッケージに包まれた広島銘菓のもみじ饅頭はもちろん、「カープの鯉人」、「カープからす麦クッキー」、「広島東洋カープ野球カステラ」などなど、しょっぱいところでいうと「カープかつ」もあったりと、挙げていくときりがない、うらやましいかぎりである。
ライオンズとおまんじゅう、といえば…
対するライオンズはというと、埼玉に本拠地を置くスーパーマーケット、ヤオコーで売られている「ライオンズバナナ」くらいしか思い浮かばず、果たしてバナナはおやつ、もとい、お菓子といえるのかという疑問は残る。
埼玉を離れ、たっぷりした大きさ、ほわっとした皮のどらやきで有名な、浅草雷門前の和菓子屋『亀十』は、十亀剣投手が、結婚式の引き菓子を注文した店としてファンのあいだではつとに知られている。さりながら、それはどちらかというとライオンズというチーム全体ではなくて、十亀個人のファンのためのお菓子といったほうがふさわしい。
さて、埼玉に戻って、この土地の銘菓といえば、草加煎餅、「彩果の宝石」、そして「うまい、うますぎる」というキャッチコピーで知られる「十万石まんじゅう」。
余談だが、このキャッチコピーは、版画家・棟方志功が十万石まんじゅうを食しての感想をそのまま使っている。1979年からテレビCMがはじまり、このフレーズが埼玉県内に染み渡ることとなったという。
「十万石」のロゴの入った定番のほかに、浦和レッズ、地元である行田を舞台としたテレビドラマ『陸王』などの焼印を押されたものも発売されている。なので、売り場の前を通りがかる度に、あれ、ライオンズは? と、もどかしい思いを抱いていたことは否めない。
今夏、ついに「L」「I」「O」「N」「S」の五文字が入った「らいおんず十万石まんじゅう」が売り出された。
ライオンズとおまんじゅう、といえば、2015年のファンクラブ会報に掲載された、おかわり君こと中村剛也選手の「俺のまんじゅう知らん?」事件をまず思い出すファンも少なくないはずだ。その後、同じく会報上で、実際はおまんじゅうではなく「ごま大福」だったことが判明した。おかわり君にとっては、あんこが皮で包まれている常温の丸いお菓子はみんなおまんじゅうなのかもしれない、と思う。