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ライアン小川と交わした熱い握手の「真相」

ストッパー転向を経て先発に復帰した小川泰弘 ©文藝春秋

――その後も、チームは上昇気流に乗れないままです。7月、8月の印象に残っているゲーム、ベストゲームを教えてください。

伊藤 ……ベストゲーム? すごい質問やな、あれだけ負け続けたのにベストゲーム? うーん、強いて言えば14連敗を止めた試合(22日・阪神戦)、あるいは山中(浩史)が完投した試合(27日・中日戦)かな? いや、26日の10点差をひっくり返した中日戦だな。ベンチでも、「まさか! まさか!」の連続でした。あの試合は3番手の山本哲哉がベテランらしいピッチングで、ちゃんとつないでくれたんですよ。松岡健一だったり、山本だったり、状況を読んで、丁寧に投げてくれるベテランピッチャーは、とても頼りになります。

――では、続いて8月のベストゲームは?

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伊藤 8月ならばライアン(小川)が好投したマツダスタジアムの広島戦(19日)ですね。8回終わったときに球数が114球だったんです。だから、次の登板もあるし、クローザーのルーキも万全の状態だったので、小川に「交代しようか?」と言ったら、「まだ投げたい」と言ったんです。それは初めてのことでした。結果的にルーキと交代したんですけど、自分がリリーフを経験したことで、リリーフの苦労をわかってくれたのかもしれない。彼の言葉はすごく嬉しかったですね。

――この日のベンチでは、かなり長い握手を交わしていましたね。今年は「小川の奮起を期待したい」との思いを込めて、あえて開幕戦に石川雅規投手を指名して、小川投手に発破をかけました。少しずつ、エースの自覚が芽生えているのでしょうか?

伊藤 ここ数年、彼ももう一つの成績でしたけれど、今年は並々ならぬ思いはあったと思います。いいトレーニングをして、明らかにボールの質は上がっていましたから。そして、クローザーとして結果を残せなかったことで、リリーフ投手に対する感謝の気持ちも、さらに強くなったし、「チームに迷惑をかけた」という責任も感じていると思うんです。結果的に、小川はすごくいい変化をしたと思います。

――確かに先発復帰後の小川投手には、静かなる闘志を感じます。

伊藤 神宮のDeNA戦(26日)もそうです。6回ぐらいから球速は落ちてきていました。でも、「彼にはひと皮むけてほしい」という思いを常に持っていたので、「今日は行けるところまで行ってもらうぞ」と話をしました。すると、彼も「行きます!」と言ってくれて、8回のピンチの場面で、筒香嘉智を真っ直ぐで抑えることができた。そこに、彼の成長を感じましたし、あの一球は、僕にとっても忘れられない一球でした。

――相手が筒香選手だからこそ、小川投手に託したかった?

伊藤 そうです。筒香に打たれて負けるのならば仕方ない。けれども、ひと皮むけるためには、どうしても小川には抑えてほしかった。あの場面、一度マウンドに行ったんですけど、小川からは闘志のようなものがはっきりと感じられました。それもまた、これまでにない彼の新しい一面だったように思います。筒香で全力を出し切った。だからこそ、すぐにルーキにスイッチしたんです。

――22日には真中監督が辞意を表明しました。この点については?

伊藤 ピッチャーとしては、力が足りずに申し訳ないと思っています。真中監督との残り試合はまだあるので、しっかりと全力で戦うことをまずは考えています。僕自身の進退についても、全日程が終わってから、しっかりと考えます。いずれにしても、シーズン最後まで、全力を尽くして戦います。

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