「東北楽天、オコエ瑠偉!」

 2015年、秋のドラフトは仕事のため東京に向かう新幹線の中でチェックしていた。楽天は一位指名平沢大河(仙台育英)を外し、外れ一位は熊原健人(仙台大学)なのでは? いや、たぶんそうだろうと勝手思っていた。

 しかし楽天が指名したのはオコエ瑠偉(関東一)。思わず、「オコエ!?」と声をあげた僕に、隣の席のおばあちゃんが優しく会釈して、ここが車内であることを教えてくれた。

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 一人にも関わらず大声をだした事に恥ずかしくなり、うつむき加減で開いたTwitterにはこれでもかという数の「オコエ!!」の文字が流れ続けた。

2015年の甲子園を盛り上げたオコエ瑠偉 ©文藝春秋

オコエばかりが出てきた甲子園、第97回大会のハイライト

 2012年から一貫してドラフト一位は高校生、しかし2013年の日本一の翌年から二年続けて最下位に甘んじてきたチームがまた即戦力ではない高校生を獲る事に少々疑問を感じたのは事実だった。しかしそれを見越しても獲得したいと思わせる夢のある選手であることも同時に感じていた。

 ふと、その年の甲子園、第97回大会のハイライトを頭の中で思い浮かべた時、優勝決定の瞬間と中京大中京上野投手vs関東一鈴木選手の幼なじみ対決以外は、三回戦の中京大中京戦でセンター後方に飛んできた打球を大ファインプレーでキャッチするオコエ選手、初戦の高岡商業戦でファーストゴロを二塁打にするオコエ選手、同じく同一イニング二本の三塁打を放つオコエ選手、極めつけは準々決勝興南戦で九回ツーアウトから決勝ホームランを放つオコエ選手と、回想シーンがほぼオコエ選手で埋まってしまうのだ。それだけ印象に残るシーンが多かった。

 そしてそれは見た目の派手さだけではなく、しっかり数字にも表れていた。なんと高岡商業戦の三回に放った三塁打の三塁到達タイムが10秒75を計測していたというのだ。プロ野球選手が12秒を切れば俊足といわれる中で、高校生がこのタイムを叩き出したのだから驚きは隠しきれない。ストップウォッチで各選手のタイムを計測しているスポーツライターの小関順二さんに確認しにいくのがここ数年の習慣になっているのだが、この時は小関さんも計り間違えたのではないかと、周りのライターさんや、スカウトさんに確認したが、皆がだいたいそんなタイムだったという。そしてそのタイムは小関さんが2002年から計測を始めてプロ、アマ4000試合以上観戦し続けた中での最高タイムだったという。彼のプレーには華があるだけでなく夢があるのだ。