今年の夏休み、特に東京はお盆休み前に新型コロナウイルスの感染者数が増えたこともあり、「Go To トラベル」キャンペーンからも除外され、外出自粛を求められた。
今年は帰省を見送ったという声も多く聞かれる中、東京から青森県に帰省した男性の家に「なんでこの時期に東京から来るのですか?」「さっさと帰って下さい!!」とビラが残されていたというニュースも話題になった。
それでも、様々な理由で帰省した人たちに取材すると、それぞれに肩身の狭い思いをしたようだ。彼らの体験談を紹介する。(取材・文=素鞠清志郎/清談社)
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母を亡くして2回目のお盆、近所のおばちゃんに……
◇高瀬優子さん(仮名、42歳・不動産業。帰省先は山梨県)
「コロナが収まらない中、実家へ帰省することに躊躇はありました。前年に母が亡くなり、父から電話で『お母さんの2回目のお盆があるし、準備は俺ひとりではできないから』と夏前から帰ってきてほしいと念を押されていました。お盆に合わせて、家族(夫と小学生の息子)で帰省しました。
自家用車を運転して、2時間ほどで実家に到着。さっそく掃除をしたり、お盆の飾り付けやお供え物の準備をしたりと忙しかったですが、家族以外とは接触しないだろうと思って過ごしていました。
しかし、実家の向かいの家に住んでいる、小さい頃から親しくさせてもらっていたおばちゃんに玄関先でバッタリ会ってしまい、『いつまでこっちにいるの?』と話しかけられました。おばちゃんは微妙な笑みを浮かべながら、『あんなにテレビでやっているのに、気にならなかった? うちの息子は“今年はお互いのために帰省しない”って早々に連絡あったから、どこもそうかと思ってたよ』と言われてしまいました。
『お母さんが亡くなって2回目のお盆だし、お父さんがひとりじゃ無理だから帰ってきたんですよね』と答えると、おばちゃんはウンウンと頷きながらも『家から出ないほうがいいよ。何かあったらお父さんも巻き込んで大変なことになっちゃうからね』と言って、去っていきました。
帰省は4日間の予定でしたが、家にいてもおばちゃんの言葉を思い出したり、見られているのかな……と気にかかって、夫と息子は3日目の早朝、まだ駅に人のいない時間に電車で東京に帰ることになりました。久しぶりに田舎の怖さを実感しました」
高瀬さんは、地元コミュニティ特有の「相互監視」の怖さを感じたようだ。家族構成はもちろん、子どもがどの大学に行っているか、東京で働いているのは誰かなど、詳細な情報をお互いに把握していて、「よそ者」はすぐにわかってしまうという。