年内に上場を目指すSGホールディングスの傘下の佐川急便がサービス残業の全国調査を開始した。このことで、上場に黄信号が点り始めたようだ。
同社が6月、東京証券取引所に上場を申請したと発表すると、日本経済新聞は「審査が円滑に進めば9月にも上場する」という記事を掲載した。しかし、9月に入っても、上場への具体的な動きはまだ何も聞こえてこない。
物流業界に詳しい証券関係者はこう語る。
「どんな企業であっても、上場準備に際しては、未払い残業代や過剰労働問題を完全に解決しておく必要があります。特にヤマトの巨額のサービス残業代が発覚した後だけに、東証は佐川急便のサービス残業の問題に深い関心を持っていると考えられます。もし、上場後にサービス残業を含むコンプライアンスの問題が表面化したなら、東証の審査上の問題も指摘されることになるからです。その分、審査には慎重にならざるを得ません」
未払い残業代の問題が拡大すれば、SGホールディングスの2018年3月期の業績見通しのマイナス要因となるだけでなく、今後の人件費の算出方法が変わり、利益率が落ちることも考えられる。そのため、サービス残業の問題を適正に処理することは、上場のために非常に重要だ。
サービス残業の調査について、首都圏の佐川急便の社員はこう語る。
「本社からの指示で、8月7日から、ドライバーが昼の休憩時間を取れているのか調査を始めました。8月中に全社的な調査を終えるようにとのことでした。調査を担当するのは各営業所の所長と課長です」
筆者が、「週刊文春」(2017年7月20日号)で「ヤマトに続き佐川急便でも残業代未払いが発覚!」という記事を書いて、同社が千代田営業所と仙台営業所で未払い残業代の支払いに動いていると報じたのが、7月中旬のこと。その報道内容と今回の全国調査には関係があるのだろうか。
別の佐川の社員が話す。
「調査を始める1日か2日前に、本社から調査をするようにという指示が下りてきました。千代田営業所などのサービス残業代の支払いと関係があるのかどうかという説明はありません。そうした細かい事情が現場までには伝わってこないのは、いつものことです」
ヤマト運輸よりも甘い調査
ヤマト運輸では、昨年、神奈川県で働いていた元ドライバー2人が労基署に駆け込み、彼らが所属していた支店に複数回の是正勧告が出たことで、サービス残業代の支払いが全国的に拡大した。その結果、同社は200億円を上回るサービス残業代の支払いに追い込まれ、今期の第1四半期では赤字決算に陥った。業界2位の佐川急便も、一部の営業所から全国のサービス残業の調査に広がった点では軌を同じくする。
しかし、今回の佐川急便の調査は、ドライバーが昼の休憩時間(1時間か1時間半)をとれているのかという点のみ。加えて調査の対象期間は、ヤマト運輸が過去2年だったのに対し、佐川急便は運転日報が残っている過去1年間だけ、とする。
しかし、佐川急便のドライバーたちの声を聞くと、未払いのサービス残業の実態は、昼の休憩時間分だけでは済まないほど深刻だ。
「過労死ライン」の2倍以上の残業時間
首都圏のドライバーであるA氏はこう語る。
「今年の5月前後からサービス残業の社内の自主規制が強まりましたが、それまでは家に帰るのは日付が変わってからでした。それから晩飯を食べ、お風呂に入るのが午前2時ごろ。そのまま眠りお湯が冷たくなる5時ぐらいに目が覚めて会社に行っていました」
昼食をまともにとれたことは過去数年間ほとんどなく、朝は6時過ぎに出社して午前零時すぎに会社を退社。同社の月間の残業時間の上限が昨年度は80時間、今年度は75時間と決まっているので、それを超える分はサービス残業となる。
A氏の場合、サービス残業の時間は、一日6時間近く。月間では140時間超。上限の残業時間と合わせると、200時間を超える。厚労省が「過労死ライン」とする80時間の2倍以上となる。
しかし、A氏が8月に入って所長との面談で聞かれたのは、昼の休憩時間が取れているのかどうか、という点だけ。昼の休憩は全くとれていなかったが、所長はA氏がタバコを吸うことや、トイレにも行くことなどを指摘し、一日30分強の休憩をとっていることにされた。
朝と夜のサービス残業については一切触れられなかった。また、取れなかった昼の休憩時間がサービス残業代として支払われるのかどうかははっきりと聞かされていない、とA氏は言う。
タバコを吸ったことを昼の休憩時間にカウントされたのは、A氏だけではない。