サービス残業代はヤマト運輸を上回る可能性も
佐川急便の城南営業所で働いていた元セールス・ドライバー2人が2013年5月、東京地裁に未払い残業賃金不払い請求の裁判を起こしている。
原告2人は、2009年から2012年まで佐川急便に勤務した。その間のサービス残業、未払い残業賃金の支払い請求を行った。結果は、東京地方裁判所が2015年2月、佐川急便側に対して、2人に制裁金に当たる付加金も含め約215万円を支払うようにという判決を下した。原告・被告双方が上告しなかったため判決が確定した。
ドライバー1人当たり、100万円強のサービス残業代等を支払ったという判決を全国に当てはめてみる。佐川急便のドライバーを3万人とすると、サービス残業代は300億円となり、ヤマト運輸のサービス残業代を上回ることとなる。
そうなれば、親会社のSGホールディングスが6月、東京証券取引所に申請している上場に黄信号が点る。時価総額は、3000億円から4000億円になると推定される。上場できれば今年最大規模の株式上場となるといわれている。
これまで未上場企業という立場を貫いてきたSGホールディングスがなぜこの時期、上場申請に踏み切ったのか。
業界関係者はこう解説する。
「2016年3月、SGホールディングスが業界大手の日立物流との株式の持ち合いを始めてから、両社間に合併話が持ち上がったのです。重機などを含む重量物の輸送や、業界で“サードパーティー・ロジスティクス”と呼ばれる提案型の業務を得意とする日立物流と、小口配送を中心とするSGホールディングスが合併すれば、補完関係が成り立ち、それにより企業価値を高めることができるとSG側が踏んだのです。しかし、日立物流は、合併の条件として、SG側に上場企業並みのガバナンスを求めた。それをクリアするため、上場しようというのが、SG側の目論見なのです」
上場前に問題を解決すべき
SGホールディングスの栗和田榮一会長は6月の会議で、こう語っている。
「今回は日本国内の物流業界の課題が明らかになった『天の時』、物流は社会インフラとして欠くことが出来ないと認識された『地の利』、申請手続きを任せられる『人を得て』申請に至りました」
「(しかし)もし今回、何らかの問題が発覚して、上場が認められないようなことにでもなれば、再申請するには長い期間が必要だろうと思料します」
物流企業が上場する際には、前もって未払い残業代を支払った後で、申請し、上場を果たした企業もある。しかし、なぜSGホールディングスはそうしたプロセスをとらなかったのか。
変わらぬ隠ぺい体質
佐川急便の関係者はこう語る。
「(1990年代に起こった)“東京佐川急便事件”を解決したのは、(SGホールディングス会長の)栗和田氏だったと本人は言うけれど、お客様の佐川急便のサービスへの支持があったからこそ解決したというのが本当のところです。東京佐川急便事件で露呈した同社の隠ぺい体質は、栗和田氏がトップとなって以降も変わっていません。ご自身が、これまでの経営上の失敗の責任を認めない限り、SGホールディングスが変わることはないでしょう」
経営上の失敗の具体例として、2000年代に入って、ヤマト運輸とネット通販の荷物の奪い合いをすることによって、利益率が低下の一途をたどったという企業戦略や、直近では、佐川急便のドライバーが駐車違反を隠すために身代わりに出頭させ、係長やドライバー等60人以上が書類送検されたが、佐川急便は会社としての関わり合いを認めなかったことなどを挙げる。
「こうしたことは栗和田氏が、代表権を持っている限り変わらない、と考えています」(先の佐川急便の関係者)
今回の取材に対し、前出の同社広報課の山口課長は、「(全社的なサービス残業の)調査を実施しております」と認めた上で、「ドライバー本人から申請があり、調査が行われ、サービス残業の実態が認められれば、1年を超えてサービス残業代を払うこともあり得ます」と答えている。
また、サービス残業代を過去3カ月分しか支払わないというのは、全社的な方針なのかという問いに対しては、「そのような事実はこちらでは把握していません。そのような指示はしておりません」と回答している。
佐川急便が抱えるサービス残業の闇と、親会社の上場の行方には、今後も注視が必要のようだ。