喫煙時間を休憩時間に無理やり換算
首都圏で働く、ドライバー歴約10年のB氏は、八月に入って行われた所長との面談で、最初に1日に何本タバコを吸うのかと聞かれ、「10本ぐらい」と答えると、「1本吸うのに10分かかるとすると10本で100分。お昼の1時間半の休憩は十分にとれているよな」と決めつけられた。
B氏にはとうてい納得できない話ではあるが、ドライバーと所長という立場の違いのため、面と向かって言い返すことは難しかった。人事権を握る所長に反抗的な態度をとると、一番きつい配送コースに回されるのは目に見えているからだ。
B氏もまた、朝と夜にもサービス残業をしていたが、そのことが問題として取り上げられることはなかった。
納得しないなら裁判をおこしてもらうしかない
中部地方で10年以上働くドライバーのC氏の場合、支店の担当者がサービス残業の調査にやってきたのは5月のことだった。C氏が、過去2年のサービス残業が約1500時間あることを告げると、担当者はこう答えた。
「当社としては、過去3カ月分だけしか払えない。それぐらいしか余裕がない」
C氏は述懐する。
「一般的にサービス残業代の支払いが過去2年までさかのぼって請求できるのは、現場のドライバーでも知っていることです。それを会社の都合で3カ月しか払わないと言うのでびっくりしました。この会社は、コンプライアンスの視点から見て大丈夫なのか、と疑いました」
その担当者がC氏に提示したサービス残業の時間は3カ月で10時間。C氏は「冗談じゃない」としてその話を蹴ると、担当者は「納得してもらえないのなら、民事裁判を起こしてもらうしかない」と語った。その後、所属する営業所で、サービス残業の聞き取り調査は行われていない。
佐川急便はサービス残業ありきの会社
あろうことか、サービス残業代の支払いの申請の権利を破棄してほしい、とまで言われた人物もいる。
首都圏のドライバーのD氏は、5月に所属する営業所の所長から、過去3カ月にさかのぼってサービス残業を申請するか、あるいは申請の権利を放棄してほしい、と言われた。
D氏はサービス残業を申請しなかった。その理由をこう語る。
「これまで佐川急便で働いてきた10年以上、当たり前のようにサービス残業代を行ってきました。いまさら、3カ月だけのサービス残業代の請求はおかしい、と思ったからです。佐川急便はサービス残業ありきの会社だと思っています」
D氏は、過去数年にわたって1日2時間以上のサービス残業をしていた、という。1カ月20日出勤なら、40時間を超すサービス残業をしていたことになる。
D氏がサービス残業の申請の権利を放棄すると、その月の給与に上乗せして数万円が支払われた。
「そのとき、所長はサービス残業の件と数万円を支払ったことは口外してくれるなといっていましたから、口止め料みたいなものだったのでしょうか」
佐川急便広報課の山口眞富貴課長は、「私どもは日々時間管理を徹底しており、サービス残業は発生していない」と、今回の一連の取材に答えている。
しかし、それは事実だろうか。