日本橋でも“出る”という噂が……
同様に私が担当した案件に、現在のコレド日本橋がある。ここは、従前は東急百貨店日本橋店だったものを三井不動産と東急電鉄・東急不動産の東急グループが買収し、再開発したもので、現在はメリルリンチ日本証券がアンカーテナントとして入居している。
東急百貨店の前は、この土地には白木屋というデパートがあった。白木屋は江戸三大呉服店として栄え、日本橋に大きなお店を構えていたが、1932(昭和7)年12月に火災が発生、逃げ遅れた女子店員14名が亡くなるという悲惨な事件が起こっている。その後、白木屋を傘下に収めた東急百貨店が日本橋店として建て替えるが、成績が振るわずにいたところを、我々が買収することになったのである。
だが、閉鎖後の百貨店に実査に入った我々が、窓のない真っ暗なフロアで歩みを進めると、歩く廻りでカサコソ音がする。正体は本当はネズミなのだろうが、我々についてくるような妙な物音に背筋が寒くなった経験がある。実は東急百貨店に商品を納入する業者の間では、ここに幽霊がいるというのはかなり有名な話だったようだ。
「井戸は絶対に保存せよ」
その後私は担当をはずれ、この開発は社内の開発チームにゆだねられたが、敷地内にあったお宮と井戸を保存し、何度もお祓いをしたと聞く。井戸は火事で逃げ遅れた女子店員たちが水を求めたとされ、絶対に保存せよと社内でも厳命されたらしい。
同じような事象は他にもあり、72年に火災が発生した大阪の千日デパートや、82年に火災が発生し、多くの宿泊客が亡くなった赤坂見附のホテルニュージャパン跡地に建てられたオフィスビルなどでも、幽霊が出るといったうわさは絶えない。
私の知人はビルの警備会社を経営しているが、いわくつきの建物で勤務していると、幽霊にでくわすことがあると真顔で言う。彼は大学ラグビー部出身で、失礼ながら到底幽霊など信じるようなキャラクターではないのに、そんな彼が言うのだからなんだかもっともらしく聞こえてしまう。