街中にはたくさんの不動産屋がある。そして不動産屋を訪ねると、カウンターの奥の事務スペースにほぼ間違いなく神棚が祭られていることにお気づきだろうか。不動産を扱っている人には信心深い人が多いからか? しかし不動産屋は、社会的にはどちらかといえばいい加減で、不動産を扱ってぼろ儲けしているような印象をもたれている。特段に信心深いといった風評もない。
では、なぜ神棚があるのか。それは、不動産屋は神様に手をあわせなければならないような、多くの経験をしているからだ。
私も長いこと仕事で不動産を扱ってきているが、実は、そうした業界にいると世にも不思議な現象にたくさん出くわす。現代は科学万能の世の中であるのに、どう考えてもありえないようなことを実際に体験すると、さして信心深いとも言えない自分でさえ、不思議と神棚に手を合わせるようになるのだ。
“将門の首塚”を避けて設計されたビル
今年6月、東京都千代田区の大手町に「大手町ワン(Otemachi One)」という複合再開発ビルがオープンした。この土地は、かつては三井物産本社ビル、旧日本長期信用銀行本社ビルおよび三井生命ビルの3棟が存在したエリアだ。私も三井不動産に勤務していた2000年頃に、このエリアの再開発を担当したことがあり、思い出の多い土地である。
3つの土地面積を合計すると6000坪を超える広大な敷地なのだが、当時、設計会社に開発プランを描かせると、妙に形の悪いプランが出てきた。もっと整形の超高層ビルをイメージしていた私には、なんだか物足りなく映った。そこで図面をよく精査すると、敷地の一部から建物が逃げるように建っていた。そしてその逃げた土地は、将門の首塚が祀られた場所だったのだ。
平将門は崇徳天皇、菅原道真とあわせて日本の三大怨霊と呼ばれる人物。その首塚が大手町のど真ん中にあるのだが、調べてみるとこの首塚にまつわる様々な怪奇現象があるという。
机や椅子もお尻を向けないようにレイアウト
関東大震災当時は、この地には大蔵省の官舎が建っていた。地震で被災したため、建替える際に首塚を撤去したところ、大蔵大臣をはじめ14人もの関係者が亡くなるという奇怪な事件が起こり、首塚を復元。さらに戦後、GHQがこの首塚を撤去しようとしたところ、作業車が横転して作業員が亡くなるという事件まで発生したという。
私が担当した時にも、三井物産社員から、本社内の机や椅子のレイアウトは絶対に首塚に尻を向けないようにしているという、不思議な話を聞いたものだ。
さて今回できあがった大手町ワンを見ると、なるほどほんのわずかな面積しかない首塚の敷地を迂回するように、建物が窪んでいることに気づく。やはり気にしているのだ。余計なお世話だが、新オフィスに入居するテナントも、一応首塚方向にはお尻を向けないようにと心配になる。