世田谷文学館で「安野モヨコ展 ANNORMAL」が開かれている。

 漫画家・安野モヨコといえば、『ハッピー・マニア』『働きマン』『さくらん』などのヒット作で広く知られる。このたびデビュー30周年を迎え、それを機に個展が企画されたのである。

 会場には、これまでに発表された作品の原画やセリフの抜き出しがずらりと並ぶ。馴染みのキャラクターと出逢える展示は、長年のファンにはもちろんうれしいかぎり。

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 ただ……、中には不思議に思う向きだってあるやも知れぬ。 

 漫画家の個展とはこれいかに? いったいどんなものなのだ? と。

 会場が世田谷文学館だけに、漫画は文学でもアートでもなかろうに……。そんな指摘も挙がりそうだ。

 

漫画家個展はすでに「鉄板企画」

 いや実は、漫画家の個展自体は、そう珍しいものではなくなっている。世田谷文学館ではこれまでに、石ノ森章太郎、浦沢直樹、岡崎京子、さらには手塚治虫といった面々の展示が開かれ、人気を博してきた。すでに定番のキラーコンテンツと言っていいほどだ。

「さくらん」2002年

 それはそうだろう、コンテンツとして見た場合、漫画ほど隆盛を誇り、広く浸透しているジャンルもまたとない。コミックの売り上げは莫大で文学書の比ではないし、アート作品の市場規模や知名度は漫画作品のそれに遠く及ばない。人気漫画を展示に仕立てれば、ある程度「客を呼べる」催しにする見通しは立つ。

 では、表現としての質はどうか? 漫画はミュージアム的な空間で「展観」するに足るものか。文学やアートに一応は認められている「高い表現性」や「芸術的価値」と、肩を並べるほどのものなのかどうか。

 この疑問には即答できる。漫画はとっくの昔から、文学やアートと同列に見るべき表現領域であると。展示品として眺めても、充分に他のジャンルを凌駕する優れた表現を生み出せるものだ。

 漫画は、絵と言葉(セリフ)から成る。この両者をうまく操れれば、言葉の芸術たる文学とビジュアル表現たる美術、双方の要素を高い次元で融合した、他にはない表現となり得るのである。

 そのあたりは、安野モヨコ展をひと巡りすれば、よくよく納得できるはずだ。