複雑な創作プロセスが、作品に生命を宿らせる
牧田愛の絵画は、制作プロセスがまた独特である。
創作のはじまりはPCの画面上だ。写真などのさまざまな人工物モチーフを集めてきて、コラージュしたり、かたちや色、質感を変えて加工を施したりしていく。そうしていったん画面上に一枚のデジタルイメージをしかと構築する。
デジタルイメージが完成したら、それを今度はリアルなものにしていく作業にとりかかる。キャンバスの布など作品に応じた支持体にイメージを転写し、その上に油絵具で緻密に絵を描いていく。
それでようやく一作の完成と相成る。最初に構想されたデジタルイメージが、牧田本人によって実体を与えられていくわけだ。
PC画面上で一応の絵柄がすでに浮かび上がっているのであれば、それを提示して作品とすれば済むのではないか、などとも思ってしまうが……。なぜ牧田は毎度こんな手の込んだプロセスを経るのか。
本人にそのあたりの説明を聞くことができた。
「自分の手を動かし、絵具という物質を用いて描き込んでいくこと。それをして初めて、画面に温かさが滲み出るという感覚があるんです。デジタルイメージを物質にしていくという、気の遠くなるような地道な時間が、私と作品にとってはどうしても必要なものなのでしょうね。
筆を動かし描き続けていると、何か大いなる流れのようなものにつながる感覚がやってくることもあります。まるで人類の歴史をたどり直しているような気分で描いています」
牧田愛の複雑な創作プロセスは、作品に生命を宿らせるために必要な、一連の儀式なのかもしれない。
高木啓伍バイヤーは、「いい作品の実物に触れることで、現代アートのおもしろさを感じてくだされば」と強調する。ただ同時に、現地に足を運べない人にも出品作を観られるように「デジタルカタログ」を用意。オンラインストア上で購入を完了できるルートもつくってある。
無機物に生命が宿るとき、つまりは無から有が生まれ出る瞬間を、牧田作品を通して体感してみたい。