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2020/10/04

「やったことあるか?」と聞かれて

『やったことあるか?』『あります!』

 食らいつくために嘘の返事をしました。他の人がやっている姿を一生懸命盗み見して、“炙り”をやりました。でもやっぱり下手だったみたいで、『お前、焦がしてんじゃねーか! もったいないねえ』と怒られて。

 でも目的は薬物をやりたかったんじゃなくて、仲間に認めてほしくて、その場の一員になりたくてやったんです」

 

 依存症になる人は弱い人間なのだろうか。薬物に手を出したのは、高知さんの甘さやゆるみだけが原因なのだろうか。

 壮絶な家庭環境に加え、1964年生まれの高知さんの世代は、根性論や精神論がまかり通っていた時代でもある。明徳義塾の野球部に所属していた高知さんは、コーチから「練習中に水を飲むやつは根性なしだからレギュラーにはなれない」と言われ、真夏のグラウンドでバタバタと熱中症で倒れていく部員たちを何度も見たという。

 社会で受けたストレスを家庭で癒やすこともできず、その痛みに気づかないフリをして全速力で走り続ければ、心身が悲鳴を上げるのは当然ではないだろうか。

俺にとって今年は遅い遅い成人式

 高知さんはマトリ(麻薬取締官)に逮捕されたとき、「ありがとうございます」と御礼を口にしたという。それは、辛かったレースからやっと降りられる、そう思って心底安心し、口をついて出たように思えてならない。

 

「薬物で捕まるまで、母をずっと恨んでいました。でも回復プログラムで過去を洗い直して思ったのは、育て方はわからなかったのかもしれないけど、お袋なりに俺に対して愛情を注いでくれていたんじゃないかなってことでした。

 子どもは親を変えられないけど、俺は一枚だけ残ったお袋の写真を今でもずっと手離すことなく持っている。それが事実ですよね。同じ一枚の写真でも、歳を重ねていくと、全然違った景色が見えるものなんだなって改めて感じています。

 この9月で4年の執行猶予も明けました。俺にとって今年は本当に遅い遅い成人式だと思ってるんです」

 依存症の治療はがんなどといった病気のように、一定期間再発がなければ寛解、といったものではない。“止め続ける”ことを努力し、“回復し続ける”ことが、依存症にとっては大切なのだと言う。

 第2回では、相次ぐ酒や薬物をめぐる芸能人の逮捕や、依存症報道のあり方について話を聞く。

(続きを読む「『ビクッとする。フラッシュバックも』覚せい剤で逮捕の高知東生が今、マスコミに思うこと」)

撮影=深野未季/文藝春秋

生き直す 私は一人ではない

高知 東生

青志社

2020年9月4日 発売

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