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異例のヒット…低予算の中国系映画がトランプ政権下の白人になぜ響いたのか

映画『フェアウェル』

 今年の米アカデミー賞は、韓国映画『パラサイト』の作品賞受賞が話題をさらった。その裏で「ノミネートされず残念!」と嘆く声が多くあがったのが、同じアジア系キャストの映画で、10月2日に日本公開される本作『フェアウェル』だ。

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■作品紹介:生まれ育った中国を離れ、日本やアメリカに渡った息子や孫が、末期がんを患った祖母(チャオ・シュウチェン)に会うために何十年ぶりかに帰郷する。中国ではがん告知の習慣がないため、一族が揃う理由として、孫の結婚式がでっちあげられていた。孫の一人、NY育ちのビリー(オークワフィナ)は告知すべきと主張するが……。

 上の作品紹介をご覧いただければわかる通り、これはNYに育った30代の中国系移民ビリーを主人公にした「中国人一家」の話だ。メインキャストは中国で活躍する〈中国人〉、ビリーを演じたラッパー、オークワフィナ(父が中国系アメリカ人で、母が韓国人)のように〈アジア系アメリカ人〉など様々だが、全員がアジア系。

 NYの街中にいるビリーと、中国長春の病院にいる祖母・ナイナイが携帯電話で話すシーンから映画は始まり、ナイナイに会うためにビリーが数十年ぶりに中国に帰って以降は、舞台は長春に移る。台詞は全編ほぼ中国語だ。

 しかし、これは〈アメリカ人〉が監督し、アメリカのスタジオA24が配給した「アメリカ映画」。しかも保守化が進むトランプ政権下にあって、小規模作品ながら全米で異例のヒットを飛ばしたというのが興味深い。

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オバマ前大統領が2019ベスト映画に選出

 作品としての面白さは折り紙つきだ。「祖母ナイナイにがんの告知をすべきか」に焦点が当てられ、生命倫理をめぐる東西文化の対立と単純化して紹介されがちだが、それだけじゃない。

「私にとってこれは“愛情表現”についての物語。文化的にも個人的にも異なる人たちがどうやって愛情を表現するのか。現代の家族、特に異文化の中で生活している家族の中では、どんなふうに話が行き違ってしまうのか」

 脚本・監督のルル・ワンはこう語る。自らも中国に生まれ、幼少期にアメリカに移住。『フェアウェル』は自身に起きた実話をもとにしたストーリーなのだという。

「私が特に興味があるのは、故郷で人々がするよりも、移民たちが新しい国で自分たちの伝統を保存しようとすることです。多くのアメリカに住む中国系移民は、中国にいる人々が忘れてしまった伝統に執着しています。一方、上海のミレニアル世代は、モダンで、ハイテクな生活を送っていたりする。ビリーもまた、中国に戻ってカルチャーショックを受けます。今の中国は、ビリーの記憶や、聞かされてきた物語の中にある中国とは違うからです」

ルル・ワン監督は1983年中国北京に生まれた37歳。幼少期にアメリカに渡り、マイアミで育ち、ボストンで教育を受ける。短編ドキュメンタリーと短編映画を監督した後、『Posthumous』(14/原題)で長編映画監督デビュー。今作が長編2作目。

 2019年7月の全米公開時は上映館4館でのスタートながら、3週目には全米トップ10入り。昨年末には、映画好きで知られるオバマ前大統領が、ツイッターで「2019年のベスト」の1本として紹介。主人公ビリーを演じたオークワフィナは、1月のゴールデングローブ賞で、アジア系アメリカ人初の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)に輝いた。