「うおー! 動きが初代タイガーマスクみてえだな! なんか立体的だぜ!」
「つかオマエさー、野球をプロレスで例えても俺しかわかんねぇから」
7、8年前の夏の終わり頃、神宮球場のスタンドにて、カープ狂いの友人はそう言って笑った。年に1、2試合くらい、ビールと選手名鑑を片手に、巨人戦じゃない“どっちが勝ってもいい試合”を観戦するのは新鮮だし非常に楽しい。四球やエラーにガッカリする事もないし、そういやドラフト以降名前聞いてねぇな、みたいな選手も見られるし、一歩引いた視点で落ち着いてゲームを観ながら、酒を呑んでいられるのだから最高だ。
そしてこの日、俺がとにかくビビってたじろいだのが、広島東洋カープの若きセカンド、菊池涼介であった。深めの定位置から、とんでもねぇスピードでヒット性のゴロに飛び付いたり滑り込んでクルッと回って一塁送球しちゃったりなんかしちゃって(©︎広川太一郎)、その4次元感溢れるマジカルな動きは、ガキの時観た初代タイガーのソレにかなり近かったのである。上手さとカッコ良さと新しさの三権分立。そのジャンルに詳しくない人が観ても、凄さが伝わるというのが真のプロってモンだろう。
こんなセカンドがいたら……と何度思った事だろうか
「いやーいいわーこのセカンド! 切符代取れるわー!!」と、キャッキャする俺を冷ややかな目で見ながら「当たり前でしょ、これでセカンド10年、13年くらい安泰だわ」と言い放ち、胸を張った友人。
果たして友人の予言は現実となった。とにかく菊池涼介の守備を喰らうと手痛い「ダメージ」が残る。得点圏でライトやセンター前に打った瞬間「っしゃー!」と拳が上がりそうになるが、3秒後には突き落とされる絶望。最低でも1点のケースが華麗なライナーゲッツーでチェンジとか、野球は9人でやるモンじゃねえのか!?と憤った事もあった。
何年間にも渡って、坂本勇人が何本ヒット損したかわからない。なんなら2000本安打はもう達成出来ていたかもしれない。挙げ句の果てにはバッティング技術まで向上し、厄介さは天井知らず。極め付けは2016年8月。ここでも話題に挙がる、当時の守護神・澤村拓一(現・ロッテ)が9回に喰らった同点ソロ~丸四球~新井さんサヨナラHRの悪夢的な流れは、選手・ファン共に深刻なマツダアレルギーの萌芽であった。
かと思えば、2017年のWBCではマジカルな守備を連発し、敵だと手強いが味方になると頼りになるぜ! と、砂の我愛羅というかほむらちゃん的な大活躍。キャップのツバは水平で、春先はネックウォーマー姿でゴロを捌く姿もイカしてたし、多分全国で相当数の少年がそのセカンド像に憧れたはずだ。
仁志敏久以来、ほぼマトモなセカンドのレギュラーがいなかった巨人。正直、こんなセカンドがいたら……と何度思った事だろうか。セカンドマギー大いに結構、だがそれが10年続きますか?? と、本社に手紙を送りつけようと思った夜もあった。
だが! そんな暗黒の二遊間にも、やっと光が差してきたのが2016年。ドラフト1位は中京学院大学卒で菊池涼介の後輩、文春野球巨人コラムではお馴染み「オレの尚輝」こと吉川尚輝選手である。週ベかなんかで読んだインタビューでは、監督自ら「ポテンシャルは吉川の方が」なんつーから期待しましたよマジで。1年目は顔見世だったが、遂にその日はやって来た。