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「総会屋へのカネは必要コストだ」 バブルのもくずと消えた“企業マフィア”の悲惨な末路

『総会屋とバブル』より #1

2020/10/08

source : 文春新書

genre : ビジネス, 企業, 社会, 経済, マネー

note

企業とともにバブルを謳歌し、衰退していった

 夜になれば東京の銀座や赤坂、新宿の歌舞伎町などの歓楽街で、高級クラブで総会屋たちが企業幹部から接待を受けるのが日常の風景となった。バブル景気が拡大するにつれ、いつしか総会屋は「企業マフィア」「経済マフィア」などと呼ばれるまでになっていた。

 警察当局も総会屋を最重要捜査対象としており、度重なる警告を無視して総会屋と関係を続ける企業に対しては、強制捜査も辞さない姿勢を示すようになった。

「銀行、証券、三菱グループ」

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 バブル当時を振り返りながら、総会屋業界のスポンサーについて論談同友会の元中堅幹部が豪語したことがある。

「銀行は、カネが商売のタネ。いくらでもカネがある。銀行で受け取ったカネを証券会社に持っていき、膨らませてもらう。三菱グループは清濁併せのむところがあり、我々との付き合いはかなり古い。そのほかにも、デパートなどの流通業や、食品会社などとも良好な関係を保っていた」

©iStock.com

「証券業界のガリバー」と言われた野村証券、都市銀行として総資産国内1位を誇った第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、そして、旧財閥系である三菱グループの中核をなすキリンビール、三菱地所、三菱電機……。元中堅幹部の言葉通り、いま挙げたすべての会社が総会屋への利益供与事件で摘発されている。さらに、松坂屋やイトーヨーカ堂といった流通・小売大手、食品会社の味の素に至るまで、誰もが知る大企業でありながら、警察の強制捜査を受け、幹部らが総会屋とともに逮捕されたのだ。

 総務担当の幹部らが逮捕されると、多くの企業では記者会見が開かれ、社長が平身低頭で世間に謝罪した。

「会社ぐるみではなく、担当者の独断だった」

 責任逃れの発言に終始する会見がほとんどだったが、そこで「知らなかった」と断言した社長が後に逮捕されたケースも少なくない。

 総会屋のからんだ大型事件の摘発が相次いだ1990年代は、バブルが崩壊して日本経済が転落していった時期だ。バブル崩壊で狂った歯車の回転に歯止めがかからず、様々な負の遺産が、数年後に事件として一斉に噴出してきた格好だ。つまり、総会屋の栄枯盛衰はバブル景気に浮かれて沈んだ日本経済の軌跡とぴったり重なるのだ。総会屋は企業とともにバブルの絶頂を謳歌し、バブルが崩壊すると衰退に向かい、日本経済が長期不況に沈むとともに消滅していった。

総会屋とバブル (文春新書)

正洋, 尾島

文藝春秋

2019年11月20日 発売

「総会屋へのカネは必要コストだ」 バブルのもくずと消えた“企業マフィア”の悲惨な末路

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