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2020/10/04

“最後の試合”の翌日も練習

 ボクシング記者が、こんなエピソードを教えてくれた。

「結果的に彼の最後の試合になった去年12月23日の対ムザラネ戦(9回TKO負け)の翌日も走ってて、大橋会長から『何やってんだ。休め』と言われてました(笑)。普通ならダメージを抜くために少なくとも1週間から2週間はオフですからね。彼が試合翌日から練習してたのはこのときだけじゃありません。井上尚弥が『何やってんですか』と驚いてたこともありました」

最後の試合となった2019年12月23日、IBF世界フライ級タイトルマッチ、モルティ・ムザラネ戦 ©AFLO

 この話を大橋会長に振ると「いやいや、それは変わってからの八重樫。かつての彼は試合後、平然と2、3週間はジムに来なかったですから」と笑う。

 ジムの後輩でWBA・IBF統一バンタム級チャンピオンである井上尚弥の、延期されていた世界戦が10月31日に行われると発表された。会場は、世界ボクシング界の頂点と言われるMGMグランドだ。

「尚弥は別格の選手ですけど、八重樫の存在はプラスアルファに作用していると思います。中学生のときから出稽古でうちのジムに来て八重樫とスパーリングして、八重樫の執念とボクシングへの取り組み方を長いこと間近で感じてきてますからね。もっとも尚弥が高校を出てうちのジムに入ってからのスパーリングでは世界チャンピオンの八重樫が、負けてましたけどね(笑)。

 八重樫は去年の12月の試合でTKО負けした直後、リングに入った僕に抱きかかえられた瞬間、何て言ったと思います? 『尚弥なら勝てます』ですよ(笑)」

「尚弥で終わりたい」最後のスパーリング

 そんな八重樫は引退発表の前月、井上尚弥選手と最後のスパーリングをしたという。

「本人が『尚弥で終わりたい』と言ってきたんです。尚弥は試合用のトランクスを履いてやってくれました。で、最後に僕が八重樫のグローブを外して『お疲れ~』。涙のない、たった数人の引退式でした」(大橋会長)

2013年8月12日、WBC世界フライ級タイトルマッチで初防衛に成功。右が大橋会長、左は井上尚弥 ©AFLO

 今後は後輩を育てる立場になる八重樫。自身が大橋に言わせたように「人は変われるんだ」という指導者になれるだろうか?

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