NHK担当課長を更迭
NHK改革には、自民党の議員のなかにも反対論者がいることは、もちろん把握していました。だからこそ、省内で意思統一を図って立ち向かわなくてはなりませんでした。課長の発言は官僚の域を超えており、見過ごすことができませんでした。課長職という現場のトップがそのような意識では、改革に向けた姿勢が疑われ、組織はまとまりません。
私はすぐに動きました。
「論説委員の質問に答えるならいいが、質問もされていないのに一課長が勝手に発言するのは許せない。担当課長を代える」
すると幹部は、
「任期の途中で交代させると、マスコミに書かれ、大問題になりますよ」
「構わない。おれの決意を示すためにやるんだ。本気でNHK改革をやる、ということを示すためだ」
「課長職はそのままにして、NHK改革の担当者を上司に替えることで了解してもらえないでしょうか」
「ダメだ」
「大騒ぎになり、結果的に大臣にご迷惑をおかけしてしまいますが……」
「いいから、代えるんだ」と押し切りました。
人事権の行使はまわりから支持が得られ、納得されるものでなくては
彼らが懸念していたように、マスコミからたたかれました。ある雑誌などには、ナチスドイツでプロパガンダを一手に担った人物を引き合いに出して「安倍政権のゲッベルス」などと書きたてられました。
改革を実行するためには、更迭も辞さない。困難な課題であるからこそ、私の強い決意を内外に示す必要がありました。マスコミはこの種の話題を面白おかしく書きたてますが、それを恐れては必要な改革は実行できません。
結果として官僚の中に緊張感が生まれました。組織の意思が統一され、一丸となってNHK改革に取り組むことができたのです。
その後、私が内閣改造で総務省を去るにあたって、更迭した課長は本省に戻しました。現在も要職で活躍していて、私の事務所にも訪れてくれます。
人事権はむやみに行使するものではありませんし、感情に左右されてはなりません。更迭された当人は別にしても、まわりから支持が得られ、納得されるものでなくては、反発を招き、官僚の信頼を失うことになります。