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ノンキャリアを局長に抜擢

 省庁の人事は入省年次や前例をふまえて決められます。この慣例を破る人事は官僚から大きく注目されます。

 中央省庁の官僚にはキャリアとノンキャリアがいて、キャリアが就く役職とノンキャリアが就く役職はそれぞれの省庁で厳密に分けられています。キャリアは課長、局長、事務次官といったピラミッドの頂点を目指して昇進していくのに対し、ノンキャリアはそこまで昇ることなく退官することが慣例となっています。

 人数の上ではノンキャリアのほうが圧倒的に多く、組織を活性化するためには、ノンキャリアの人たちのやる気を引き出し、協力してもらえるようにしなくてはなりません。

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 私は、自民党の国会対策の仕事をしていたときに、総務省のあるノンキャリア官僚と接する機会があり、

「この人はよく頑張っているな」

と感心してみていました。仕事はよくできるし、誠実だし、人望も厚い。

©文藝春秋

「こういう人を抜擢すれば、もっと組織が活性化するのに」

 ノンキャリアという理由だけで、配置を固定してしまうのはもったいないと思っていました。財務省ではノンキャリアでも能力があれば抜擢するし、たとえ組織内で目立たなくても、地道にやっている人にはそれなりに評価してポストを用意し、キャリア、ノンキャリアの壁をなくして組織で仕事をしていました。私はそれを感心してみていました。

 総務大臣に就任した時、財務省のように組織力を活かせるような人事をしたいと考え、まっ先にあのノンキャリア職員が浮かんだのです。私は人事の責任者を呼び、

「ノンキャリアだけど頑張っているし、まわりの評判もいいので、地方の局長に出したい」

 と命じました。

「わかりました」

 すると翌日、責任者は沖縄の所長のポストを人事案として出してきて、

「ここもキャリアポストですし、本人にしてみれば3階級特進で、喜ばれると思います」

 などと説明をはじめました。私は途中で、

「おれは、局長、と言ってるんだぞ」と不快感を表すと、

「失礼しました!」

 責任者はすぐに退去し、新しい局長のポストを用意してきました。

©iStock.com

官僚のやる気を引き出すための効果的なメッセージ

 大臣が命じた人事ですら、慣例から大きく離れないように修正しようとする姿を目の当たりにして、官僚がいかに人事を重視しているかを再認識しました。

 この人事は省内に波紋を投じ、大きな話題になったようです。ノンキャリアの人たちには、頑張って仕事をしていれば局長にだって就けるんだ、と歓迎されたそうです。一方、うかうかしておれないと、キャリアが気を引き締めることにもつながりました。

 また、キャリアでも事務職と技術職にわかれ、技術職が就く最も高い役職も決まっていました。ここでも私は慣例を破り、優秀で人望も厚い技術職の人物を、旧郵政の筆頭局長、さらには事務次官級の総務審議官に就けました。彼は、前述した地デジの日本方式を南米に売り込むのに大活躍してくれました。

 私は、人事を重視する官僚の習性に着目し、慣例をあえて破り、周囲から認められる人物を抜擢しました。人事は、官僚のやる気を引き出すための効果的なメッセージを省内に発する重要な手段となるのです。