「これまで執筆は喫茶店や出版社の会議室ですることが多かったのですが、自粛期間はお店も閉まっていましたし、今までのように外に出るわけにもいかず困っていました。適度にざわざわと外の音がして、人が集まらないところ……思いついたのが自宅のベランダです。とても狭いベランダなのですが、小さなサイドテーブルとアウトドア用の小さないすを無理矢理持ち出し、『ベランダカフェ』を作って書いていました。日が暮れるまでしか明かりがないので、リミットがあって、意外に集中できるというのは新たな発見でした」
コロナで一変した村田沙耶香さんの生活。芥川賞受賞作『コンビニ人間』が翻訳出版され、海外に行く機会が増えた頃から1年以上受けている英会話のレッスンもオンラインになった。つい先日は、オーストリアの文学祭にオンラインで参加した。
東京とNYを繋いだ“ミリオンセラー作家対談”
「今年は文学祭に絡めて長期で海外に行く予定がいくつかあったのですが、コロナですべてなくなってしまいました。英会話を練習する機会としても楽しみにしていたのですが……。
文学祭は控室で他の国の作家さんとおしゃべりできるのが楽しいんです。昔、アイスランドの作家の方とお話していたときに、『日本語は漢字、カタカナ、ひらがなとあるけどどうやって使い分けているの?』と聞かれ、私の英語力ではうまく答えられず『……フィーリング?』と返してしまったこともあり(笑)、もっと深い話ができたらなあと願いながら英会話をやっています。
オンラインだとそういう雑談はなくなりがちだし、あの画面のサイズと平面的な感じは余白がなくなる気がしてまだ慣れません」
そんな中、8月の終わりに村田さんにとって初となる海外とのZoom対談が行われた。お相手は、韓国で生まれ7歳の頃アメリカに渡り、現在ニューヨークで作家として活躍するミン・ジン・リーさん。リーさんにとって2作目となる著書『パチンコ』は、2017年にアメリカで発売されるや大きな注目を集め、名だたる文学賞候補はもちろん、オバマ前大統領が毎年発表している“Favorite Books”のリストにまで名を連ねている。発行部数は100万部を突破、すでに30以上の言語に翻訳されており、今年7月末に日本でも待望の邦訳が刊行された。
これを機に東京とニューヨークを繋いで行われたミリオンセラー作家対談は、お互いの作品への愛から小説の書き方、日米の執筆スタイルの違いにまで話題が及び、通訳を交えながら2時間たっぷり行われた。
約30年かけて書き上げられた大河小説
「テーマに対して徹底的に真摯に向き合った、とてつもなく誠実でフェアな作品。ステレオタイプな人物はいなくて、みんなオリジナルの言葉を持ち、生々しく生きていると思いました」。村田さんは『パチンコ』をそう評する。
在日コリアンの4代にわたる大河小説は、1910年代初頭、日本に併合された朝鮮半島で幕を開ける。釜山の市場で出会った下宿屋の娘ソンジャと仲買人のハンスは愛し合い、ソンジャは子どもを宿すが、ハンスには日本に妻子があることがわかる。彼に別れを告げたソンジャは、お腹の子どもとともに知人を頼って日本に渡り、言葉もわからないまま大阪で新たな生活を始める――。