ヒールから博士、動物まで 七色の声を持つ男
よく声優は、「七つの声を持つ」とか「十人十色、10人の声を同時に演じ分けられねばならない」などと言われ、その声(芸)域の幅広さが声優たり得る条件だったり、同時にそれが特技だったりもするが、富田さんはまさしくそれを体現していた名優のひとりだ。
先述のとおり、狡猾な悪役や、頼れる博士役の他にも『まんが 花の係長』(’76年)の主人公、しがないサラリーマンの綾路地麻朱麿呂(あやのろじましゅまろ)や『平成天才バカボン』(’90年)の二代目(初代は雨森雅司)バカボンパパの声に代表される、憎めないおっさん役。『もーれつア太郎』(’69年)のカエルのキャラ・べしとブタ松、『魔法使いチャッピー』(’72年)のレッサーパンダのドンちゃん役などの、ペット的動物役。そして、ドラえもんや『惑星ロボ ダンガードA』(’77年)のロボット・タマガー、『SF西遊記スタージンガー』(’78年)のドン・ハッカ等の非人間型コメディーキャラ、さらには大人気バラエティ『あっぱれさんま大先生』(’88年)のナレーションと、番組マスコットのワシャガエルの二役を演じ、明石家さんまさんからも一目も二目も置かれていた。
ハリウッドをはじめ、海外名優たちの声を大勢吹き替えていた
だが、なんといっても富田さんの真骨頂は、やはりアーネスト・ボーグナインや、映画『ロッキー』シリーズ(’76年~)で知られるバート・ヤングなど、海外の名優たちの吹き替えだろう。“アテレコ”と呼ばれるこの、俳優以上に俳優の技量が要求される特殊なお仕事でも富田さんは第一人者だった。
個人的には映画『エイリアン』(’79年)が、フジテレビ系で’80年にテレビ初放送された際、富田さんが声を吹き替えたアッシュ役が忘れられない。イアン・ホルム演じるこのアッシュは、エイリアンの捕獲と回収という密命を帯びた宇宙貨物船のクルーと船内を監視させる目的で、オーダー元の企業が派遣したアンドロイド(ロボット)で、当時テレビ放送で初めて『エイリアン』を観た筆者は、破壊され首だけになってなお、富田さんの博士系のナイスミドル・ボイスで淡々と話すアッシュに、その衝撃のどんでん返しも含めて驚異を感じた。設定や造型もさることながら、これなども富田さんの名人芸の賜物だろう。