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クールな職人肌 俳優の中の俳優だった

 その富田さんだが、意外にプライベートはあまり知られていない。もっとも1級の腕前を持つスキーや、ゴルフが趣味であることなど、役者のプロフィールに必要な項目は明かされており、特に意識して隠されていた訳でもないようだ。’70年代後半の最初の“アニメブーム”の際に続々と刊行された関連ムックのインタビュー・コメントでも基本、ファンレターにはお返事を書かれない主義・主張を伝え、同時にファンにそのことを詫びていた。

 だが、その後、よりディープにご本人のパーソナリティーなどを掘り下げるインタビューや、自伝・半生記等も何処にも掲載されることもなく……筆者も何回か取材をお願いしたのだが、ご丁寧なお断りのお返事を頂戴した。なので筆者的には“声優界の渥美清”というイメージを富田さんに抱いている。

 結局ご生前、お目にかかることはかなわなかったものの、声優というお仕事の不思議さは、当然と言ってしまえばそれまでだが、そのお声がいつまでも耳に残ることとなる。筆者はリアルタイム世代ではないが、思えば富田さんは、巨大ロボットアニメの元祖『鉄人28号』(’63年)の大塚署長と敷島博士の声を演じていた。爾来57年……まさしく富田さんは、日本のテレビアニメーションの歴史と共に歩んで来られた。まさにジャパニメーションの生き証人といえよう。

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ジャパニメーションの歴史とともに……

 富田さんのご逝去は、日本のテレビアニメーションの歴史にひとまずのピリオドが打たれ、次なるステージに向かい始めたことを暗示しているのかもしれない。

 今、富田さんの様々なキャラクターボイスが脳裏と耳を駆け巡っているが、筆者的には名作『タイガーマスク』(’69年)のオープニング冒頭、「虎だ! 虎だ! お前は虎になるのだ!」というセリフが終生忘れられないだろう。当時、大作曲家・菊池俊輔による名主題歌のイントロが高鳴り、富田さんのあのお声で始まる『タイガーマスク』の放送を、毎週どれほど楽しみに待ち焦がれていたことか……。

 名(声)優のお声は、同時に自身がこの世に生きてきた証でもあるのだ。