でも、お願いですから、私と夫の立場に立って下さい。皆さんの大切な夫や妻や子どもが、改ざんを強制されて自殺に追い込まれたことを想像して下さい。
きっと、私と夫の立場に立てば、「そんなこと答える必要はない」という回答が、どれだけ遺族の心を傷つけるか想像できると思います。
私は真実が知りたいだけです。(赤木さん側が国に答えるよう求めた)求釈明申立書の内容にちゃんと回答して下さい。夫が作成したファイルやメモを開示し、夫が自殺に追い込まれた具体的な経緯を教えて下さい。宜しくお願い致します。
◆ ◆ ◆
3人だけ、すっと目線を赤木さんの方向に上げた
その間、1~2分ほどの間だっただろうか。私は赤木さんの意見を聴きながら、法廷の傍聴席でじっと見つめていた。赤木さんではない。向かい側の被告席の国の代理人たちを。彼らがどんな表情、しぐさで、赤木さんのこの声を聴くのかを見届けるために。
10人以上いる代理人たちは、手元の書面を見つめていた。そこに、赤木さんが読み上げる意見の全文が文書であるからだ。だが、赤木さんが「お願いですから、私と夫の立場に立って下さい」と読み上げた時、その中の3人だけ、すっと目線を赤木さんの方向に上げた。
「皆さんの大切な夫や妻や子どもが自殺に追い込まれたことを想像して下さい」「どれだけ遺族の心を傷つけるか想像できると思います」と続く言葉に、目を宙に泳がせたり、逆にじっと一点を注視しながら何か物思いに耽る様子を見せる人もいた。どんな立場の人にも感情が、心がある。赤木さんの魂の叫びを受けて、思うところがあったのだろう。
「国の人たちが返事してくれました」
裁判が終わり、法廷を退出する時、赤木さんは被告席の横を通って外に出る。その瞬間、赤木さんは国の代理人の人たちに声をかけた。
「これからよろしくお願いします」
……すると、鉄面皮のような国の代理人の間から数人が、とまどった様子ながらも「よろしくお願いします」とお辞儀しながら言葉を返してきた。赤木さんはうれしそうに私に伝えてくれた。
「相澤さん、国の人たちが返事してくれました。気持ちが通じたんです。意見陳述してよかった」
この裁判はまだまだ長く続くが、赤木さんは確かな手応えを感じたようだ。こんな風に。
夫の母の写真と、急きょ決まった意見陳述。私はツイている。きっと裁判もうまくいくに違いない。そう考えることにしよう。