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検事の取り計らいで妻と取調室セックス…平成最大の猟奇事件の捜査過程はなぜ不可解なのか

2020/10/22

genre : ライフ, 読書, 社会

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「お前が目的ではない。関根の逮捕が目的なんだ」

 10月17日、刑事の気迫に押されて、中岡は任意の事情聴取に応じた。帰ってくると警察の張り込みがなかったので、久子と2人で荷物をまとめて家を出た。富山、飛騨高山、神戸、四国と新婚旅行を兼ねた逃亡生活を送る。だが急拵えの仮歯がぐらついてきたことから、治療を受けていた帝京病院に予約を入れて、2人で出むいたことが裏目に出た。そこに捜査陣が張り込んでいたのだ。中岡は走って逃走したが、横領の容疑で逮捕令状が出ていた久子は逮捕された。

 久子のことを放っておけなかった中岡は、自ら埼玉県警行田署に連絡し、12月から任意の取り調べを受ける。「お前が目的ではない。関根の逮捕が目的なんだ」と言い聞かされ、関根に協力して死体損壊・遺棄を行ったと中岡は供述するに至る。

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 まだ逮捕されていない中岡に、12月26日、27日の両日、岩橋検事は取り調べを行った。後に公判で中岡が明かしたことによれば、岩橋はこの時、「関根と風間に逮捕状を取れるだけのことを言ってくれればいい」と言い、中岡に関しては、「できれば起訴猶予にしてやりたいし、最悪、起訴したとしても20日ほどですぐ釈放してやる」と言ったという。

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 久子の保釈を求めることも、彼は忘れなかった。すると岩橋は、「調書に署名すれば出してやる」と言い、「年内に出すと取引だと言われるので、1月5日の休庁明けに、保釈金200万で出すから」と詳細まで話したという。

 1995年1月5日、中岡が久子の弁護士に保釈申請を頼むと、その日のうちに釈放された。関根と風間が逮捕されたのが、その日である。

好きなこと、何でも希望はかなえてやる

 中岡は1月8日に逮捕された。取り調べの滑り出しは順調だったが、中岡はしだいに態度を硬化させる。岩橋検事が言った、起訴猶予にするとか、すぐ釈放するというのが、空手形であることが見えてきたからだ。中岡は、取り調べを拒否する姿勢を見せるようになった。なんとか中岡の協力を得ようとして、岩橋は、特別な取り計らいを行った。

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 1月20日、浦和地方検察庁熊谷支部の資料室で、中岡は妻と2人きりになることを許された。1月26日には、今度は元妻と、検事の執務室で2人きりになった。中岡は離婚した元妻とも親しくしていて、車の貸し借りをしていた。事件に使われたミラージュは元妻のものだ。

 関根・風間の控訴審(東京高裁)第3回公判に証人として呼ばれた中岡は、妻と2人きりで何をしたのかと弁護士から問われて、セックスしたことを明かした。「奥さんとセックスというのは、岩橋検事のほうから持ちかけたんですか?」との質問には、「いや、好きなこと、何でも希望はかなえてやると。自分のできる範囲のことは何でもやるからと言って。私はここ熊谷でナンバーツーですから、大概のことは融通利きますよ、と」と中岡は、岩橋検事の発言を紹介した。

 一方で岩橋検事も公判証言で、「自分と事務官は、私たちがいると自由に話せないことがあるのではないか、と思って出た」と2人きりにしたことを認めている。「今までの検察官の経験の中で検察庁内で被疑者と第三者を面会させたことはない」とも言っているが、日本中探しても、こんなことをさせた検察官はいやしないだろう。