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【グリコ・森永事件】Nスペで放送できなかった「4人目の子どもの声」…「ワー」「キャッキャッ」

2020/10/30

source : 文藝春秋 2011年12月号

genre : ニュース, 社会, 映画

 日本の犯罪史上最も特異な展開を見せた「グリコ・森永事件」。この事件を題材にした映画『罪の声』が、10月30日から公開中だ。2011年夏放送のNHKスペシャルでは、NHKの記者・ディレクターによる取材班が「グリコ・森永事件」について、300人を超す警察関係者、当時の事件記者へ徹底取材を行い、最新技術を使った“証拠品”の再鑑定なども試みた。番組放送当時、NHKスペシャルチーフプロデューサーを務めた中村直文氏が明かす「未解決事件」取材の舞台裏とは――。

出典:「文藝春秋」2011年12月号

「どくいりきけん」のシールが貼られた「ハイチュウソフトキャンデー」(大阪) ©時事通信社

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警察は「7人のグループ」と見立てた

 1984年、「劇場型犯罪」の先駆けといわれるこの事件は、一部上場企業の社長誘拐というかつてない犯行で始まった。「かい人21面相」を名乗る犯人グループは、江崎グリコの社長を誘拐し、10億円と金塊100kgという途方もない要求を突き付けた。社長は自力で脱出したが、その後もグリコヘの放火、脅迫が続く。さらに、ターゲットはグリコ以外の企業にも拡大。丸大食品、森永製菓、ハウス食品、不二家といった有名企業が次々に狙われた。特に「かい人21面相」との全面対決を宣言した森永に対しては、青酸ソーダ入りの菓子を店頭にばらまくといった実力行使に出た。流通業界はこぞって森永製品を撤去、森永は対前年比9割の減産に追い込まれ大きなダメージを受けたのである。

「かい人21面相」とは誰なのか。誰が何のために犯行に及んだのか。今も解決されていない事件の最大の「謎」は「犯人像」である。警察はその威信をかけて、のべ130万人もの警察官を動員し、15年に渡って捜査を続けた。今回、取材班が独自に入手した警察の捜査資料を紐解くと、複雑に人間関係が絡み合う相関図がいくつも現れた。被害企業の周辺が徹底して洗われていたほか、「暴力団関係者」「元左翼活動家」「北朝鮮スパイ」といった記述も見られる。警察は当時、犯人を少なくとも7人のグループと見立て、これにあてはまる組織やグループを中心に捜査を進めていた。

2度目撃された「キツネ目の男」 ©時事通信社

「7人」とはすなわち、江崎社長誘拐を実行した3人組。企業との現金取引現場で2度目撃された「キツネ目の男」。そして脅迫状や挑戦状を書いた「頭脳派のリーダー」。さらに、企業脅迫の際に電話口で流された「音声テープ」の声の主、30~40代の女性と小学校低学年の男児の計7人のことである。この見立てに基づいて、警察は捜査を続けていたが、ついに犯人グループの特定には至らなかった。

 だが、今回の取材で、そもそも警察の見立てそのものが違ったのではないか、という衝撃的な事実が浮かび上がったのである。