遺伝子検査を受けた小林麻央さん
「(名前を出すことについて)そんなに深刻に考えていたわけではないんです。ただ遺伝病だからといって病気を隠すことに違和感がありました」
遺伝性疾患の特徴は、その影響が家族や親類に広がることだ。今年6月に亡くなったフリーアナウンサー、小林麻央さんの場合も、一部で遺伝性を疑う声があり、小林さん自身、ブログでこう報告している。
「遺伝子検査をした結果、BRCA1 BRCA2の変異はともに陰性で、遺伝性の乳癌ではありませんでした。」
小林さんは遺伝性だった場合、娘に負担を掛けることや、母を傷つけ、姉を不安にさせることを気に掛けていた。
こうした家族や親類への気遣いからHBOCの場合、一般の病気に比べ病気を隠す傾向が強く、クラヴィスアルクスの会員もほぼ全員が匿名のままだ。
名前の公表について太宰さんの主治医は、「やめた方がいい」という反応だった。ネットなどで興味本位に取り上げられることを懸念したらしい。一方、家族は、「恥ずかしいことではない。自分が正しいと信じるならやりなさい」と背中を押してくれた。
名前と顔を公表したことの効果は大きかった。太宰さんは言う。
「HBOCの患者さんやその家族からの相談が増えました。匿名のときは、うさん臭く思われていたようです」
現在、太宰さんはクラヴィスアルクス代表として、電話で当事者や家族の悩みを聞き、会報を作成・発行。全国各地の学会や大学が主催するシンポジウムに出席し、大きな病院を回ってHBOCへの対応について覆面調査もしている。活動の目的は、HBOCへの社会的理解を深めることで偏見をなくし、正しい対応のできる病院を増やして当事者の無用な不安を取り除くことだ。
企業や個人からの寄付が十分に集まらないため、太宰さんは自腹で全国各地を飛び回っている。原動力は亡くなる前の姉の言葉だった。