近年、快調に新作を発表している黒沢清監督。最新作『散歩する侵略者』は、宇宙人が身近な人の姿で現れ、侵略を図る物語です。不思議で豪快な演出と、最後は打ち震えて涙ぐんでしまうような、繊細なエモーションに彩られた作品です。9月18日からは、やはり黒沢清監督がメガホンを取った、スピンオフドラマ『予兆 散歩する侵略者』がWOWOWで始まるのも楽しみですね。

©2017『散歩する侵略者』製作委員会

 黒沢監督といえば、ガランとした倉庫や、冷え切った家庭、郊外、車での脱出など、黒沢清世界というべき、独自のモチーフがあります。さらに好きだと公言している監督の映画から、本歌取りしているシーンのチェックも、ファンはせずにいられません。そもそも黒沢監督作品にオマージュを見出したくなるのは、なぜでしょう?

 フランスでは1950年代から、ゴダールやトリュフォー、シャブロルをはじめとする、熱狂的な映画好きで、評論家活動をするシネフィルな青年たちが、映画を撮り始めるヌーヴェル・ヴァーグという動きがありました。そこには過去の優れた作品への目配せや、好きな監督自身を被写体として出しちゃうような、映画は映画の影響で作られ、さらに刷新されていくという認識があるのですね。日本では評論と監督業はもう少し分かれていますが、黒沢監督の初期作品は、非常にゴダールの影響が強かったです。こういった映画好きという出自が明瞭な監督たちが日本にも現れ、批評家の目を持った監督作品として意識してしまいます。

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 黒沢清監督は、一時期Jホラーの監督というイメージも持たれていました。黒沢清著『映画はおそろしい』(青土社)では、監督のホラー映画ベスト50が挙げられています。これを参考に、未見の作品を漁ったかたも多いでしょう。オールフランスロケだった前作『ダゲレオタイプの女』(16年)では、黒沢監督が以前から好きだと公言していた、ジャック・クレイトン監督の『回転』(61年)のオマージュをやっていて、(すごいことしたなあ……)と驚きました。