1ページ目から読む
4/4ページ目

鉄道とは前提から違うAI的発想

 ただ、ここで気になるのは安全性の担保。たとえば新幹線の台車の雪の例でいうと、「着雪があると予想したけれどなかった」ならば安全には影響しない。だが、逆に「着雪なしの予想だったが実際には着雪があった」だとどうだろう。なんの対応もしていないのだから、事故につながることもあるだろう。それが他の車両部品などにも応用されていれば、より大きな事故につながりかねない。その点への配慮はどうなっているのだろうか。

「これは重要な点で、そもそも鉄道の安全運行は論理的に『こうなった場合はこの装置が働いて列車が止まるので安全ですよ』というのが基本的な考え方。データサイエンスやAIは違って、例えば着雪する可能性を確率で出すんです。ある意味では外すことが前提で、外れても致命的な事故が起こらないシステムが担保されているのかどうか。データサイエンスは完全じゃないという前提に立って保安装置でカバーできない部分を補完する役割、ハイブリッドで対応していくのが道筋なのかなと思っています」(宮崎さん)

データ活用のキモは「課題設定」

 もちろん、鉄道の運行とは直接関係のないマーケティング部門でもすでにデータサイエンスの活用の取り組みはスタートしているし、鉄道会社にとって最大の“商品”でもあるダイヤへの活用もある。宮崎さんは、データサイエンス活用のキモは「課題設定」にあるという。

ADVERTISEMENT

JR西日本イノベーション本部・宮崎氏(JR西日本提供)

「いくらデータがあっても、それを使って何をどう変えたいのかがなければ意味がない。ビジネスですから、実装してそれによってどれくらいのコストカットにつながるのか、といったところまでしっかりと現場の部門と詰めていかないとダメなんです。ただ、鉄道会社にはまだまだ課題がある。AIで学習していくので使っていけばいくほど精度も上がりますし、今後はさらに広く活用できればと思っています」(宮崎さん)

 3年前に宮崎さんたちによってデータサイエンスの取り組みがスタートした当初、社内には懐疑的な声もあったという。ただ、北陸新幹線着雪問題をクリアしたことで信頼感は広がった(ちなみに、昨年は暖冬の影響で雪が少なく、ほとんどデータをとることができなかったとか。異常気象はAIの学習すらも妨げているのだ)。鉄道会社の中で、外注ではなく自社内にデータサイエンスの部署を持つのは珍しい。より安全性を高め、安心して利用できる鉄道へ――。データサイエンスと鉄道の関わりには、これからも注目である。