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「泣いたのは初めてです…」“世界一貧しい大統領”ホセ・ムヒカ85歳の言葉に日本人通訳が嗚咽した日

“元ゲリラ闘士”南米元大統領の言葉は、なぜ日本人の心に響くのか

2020/10/28

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : ライフ, ライフスタイル, 政治, 国際

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“清貧の思想”を持つ好々爺は、長年ゲリラの闘士だった

 本名ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノ。1935年5月21日、スペイン系の父とイタリア系の母の間に、ウルグアイの首都モンテビデオで生まれた。7歳のときに父親が亡くなり、家庭は貧しかった。モンテビデオ大学を卒業後は家畜の世話や花売りで生計を立てながら、1960年代に社会運動に目覚め、極左武装組織ツパマロスに加入。ゲリラ活動中には6発の銃弾を受け、4度の逮捕を経験。軍事政権下、最後の逮捕では、13年間獄中生活を送ったという。恩赦で出所後、左派政治団体を結成し、1994年に下院選挙で初当選し、2010年大統領に就任した。

 いったいどんな人物なのか。彼にまつわるあらゆる書物や記事、映像資料を見て、インタビューに備えた。“清貧の思想”を持つ好々爺。そんなイメージを得たが、一方で気になったのは、長年ゲリラの闘士だったこと。写真で見る穏やかな表情の裏に、どんな人生があったのか、とても気になった。

©文藝春秋

 私は、ムヒカ氏の到着を待った。日本人論を聞こうとか、日本人移民との交流を深く聞こうとか、質問は山ほどあるにせよ、限られた時間内で収めなければならない。片道30時間以上の長旅のうえ、ご本人が高齢のため体力的な負担をかけるわけにはいかない。スペイン語の通訳を介してのインタビューになるので、通常の倍時間がかかる。そんなことを心配しながらいると、ムヒカ氏が登場した。ゲリラ活動をともに戦った同志で、ムヒカ氏をずっと支えてきたルシア夫人と2人の男性ジャーナリストも随行。大テーブルをはさんで、目の前にムヒカ氏と通訳の日本人女性。私は旅行で習ったスペイン語で挨拶し、手前に座った。

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 背丈は日本人と変わらず、貫禄のある体格。ムヒカ氏はテーブルの上で手を組み、チャーミングに微笑んで「お好きな質問をどうぞ」と切り出した。質問をするたびうなずいて、ゆっくりおだやかな口調で語った。大事なところでは、まっすぐに私の目を見つめ、「自分が言いたいことは、これなんだ」という強い意思がはっきりと伝わった。

 質素な暮らしの理由、日本人から学ぶべきこと、世界を支配する強欲資本主義、チェ・ゲバラからの影響、そして老人の孤独死にいたるまで話は及んだ。驚いたのはムヒカ氏が日本の「明治維新」に興味を持ち、学んでいたことだった。当初は少し緊張していたふうに見えたムヒカ氏だったが、持論を語るにつれ、次第に言葉が熱を帯びてきた。