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「私たちは非常に多くの矛盾をはらんだ時代に生きている。こういう時代にあって、自らに問わなければならないのは“私たちは幸せに生きているのか”ということだ。経済の進歩は、一面で非常にすばらしい効果をもたらした。150年前に比べれば、寿命は40年延びた。その一方で、私たちは軍事費に毎分200万ドルを使っている。また、人類の富の半分を100人ほどの富裕層が持っている。私たちはこうした富の不均衡を生み出す社会を作ってしまった」

 ムヒカ氏の顔には深いしわが刻まれ、それは人間の年輪のよう。柔和な風貌なのに、岩のような厳しい表情が見え隠れする。この人は本物だ、と確信した。

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通訳の女性は「泣いてしまったのは初めてです、すみません……」

 時間がなくなり、最後の質問で、私は「ムヒカさんがこれまでで一番幸せだなと感じたことはなんでしょうか」と訊ねた。ムヒカ氏は組んでいた手を一瞬ギュッとして、考えをめぐらせた。

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 私はかたわらで静かに見守っているルシア夫人を見て、きっと「妻と出会えたこと」ではないか、ロマンチックな回答を内心期待した。著書にも「ルシアは私の人生を変えた」「二人の間に子どもは欲しかったけれど、授かりやすい時代を刑務所で過ごしたから、それは仕方がなかった」とあったからだ。

 静かに語るムヒカ氏の言葉を拾った通訳の女性が、突然、天を見上げて嗚咽を漏らし始めた。「本当に、すみません、私、長いこと通訳の仕事をしていますけど、こうして泣いてしまったのは初めてです、すみません……」

 いったい何があったのか。その光景に驚きながら、彼女の通訳を待った。

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 そして、完全に打ちのめされた。思わず言葉を失った私を、ムヒカ氏は「大丈夫だ。頑張って」と、握手して引き取ってくれた。ざらりとした太い指とぬくもりのある手のひら。包み込むようなあの感触は忘れない。彼の生き様に触れたような気がした。

 その答えは、「文藝春秋 電子版」に掲載されている「日本人への警告」を読んで、ぜひ知ってほしい。

文藝春秋

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日本人への警告 世界一貧しい大統領