高齢者のセックスでの落とし穴
私は高齢者も大いにセックスを楽しむべきだとお話ししてきました。しかし、注意しなければならない点があります。それは男女には性欲について差があることです。
1990年のことだと記憶していますが、スウェーデンである事件が起こり話題になったことがありました。夫がアルツハイマー病の妻が入っている介護施設に通い、セックスしていたことが、強制わいせつにあたるのではないか、という事件でした。
これは30年前のことで事件として話題になりましたが、今はこの手の話は事件ではなく社会問題になっているのではないか、と思います。
栄養も住環境も良くなり、今の高齢者は元気一杯です。しかも、パソコンやスマホの普及で、誰もがエロチックな写真や動画を手軽に見れるようになり、肉体的に衰えても男性は薬の力を借り、女性はゼリーなどを使ってセックスを楽しむことができます。
しかし、あくまでもセックスは互いの合意があって行うべきであって、片方の欲求だけで行ってはならないということです。
「性欲を抑える薬を出してくれませんか?」
先日、あるご婦人が旦那さんを伴ってやってきました。
「先生、お願いです。この人の性欲を抑える薬を出してくれませんか?」
「どういうことですか?」
「とにかく性欲が強すぎて毎日セックスしないと眠れないというのです。これまでは我慢してきましたが、もういやなんです」
旦那さんに聞くと、結婚以来毎日のようにセックスをしていて、いまはそれが習い性になっていて、セックスなしでは眠れないというのです。その精力には驚きを禁じえませんが、奥さまからすればたまらないというのもよくわかります。
「残念ですが、そういう薬はありません。旦那さんは昼間にスポーツでもしてエネルギーを発散してください」
と申し上げました。
ほかにも元気過ぎる性欲に苦しんでいる男性高齢者は少なくありません。私の知人は76歳です。定期的にセックスを楽しんでいましたが、奥さまが病気で介護が必要となり、セックスができなくなりました。
「失礼ですが、夜のほうは大変なんじゃないですか?」
こう問うと日焼けした顔を少し曇らせて、こうお話しされました。
「仕方がないのでゴルフ三昧です。昨年は60ラウンドくらい回ったかもしれません。かといって他の女性に走るつもりはないので……。男はいつまでたっても性欲との闘いです」