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“太く、短く”生きた西武・高橋朋己。いつも“子ども”のように振る舞った理由

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/11/02
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「やっとできた」トミージョン手術

 不調に陥った2015年シーズン途中にクローザーから中継ぎに回り、9月23日の試合中に打球を処理しようとして転倒、右足腓骨を骨折した。戦線離脱でこの年を終えている。

 捲土重来を期した翌年だが、キャンプ中に左肘に痛みが走った。それでも「自分が抜けたら」とチームの台所事情を考え、痛みをこらえて投げ続けた。開幕から満足のいく球を投げられないまま7試合に登板し、左肘の張りで4月後半に登録抹消。そして7月、トミージョン手術を受けたことが発表された。

「みんな、『トミージョン手術をする』と言うとすごく残念そうな顔で見てきたり、『リハビリ期間が長いよ』とかすごく重い空気にされるんですけど、自分としてはそこまで重いものだと思っていないんですよ。メスを入れたら、(傷ついた)靭帯が変わるので。また野球をやっていれば、(良かった頃に)戻るのかなという感覚です。むしろ手術をしたくて、やっとできたという感じですね」

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 2017年のキャンプ前、あっけらかんと話すことに驚かされた。

 確かにトミージョン手術は、投手にとって前向きな選択肢だ。長らく悩まされた痛みから解放され、1年から1年半とされるリハビリ期間をうまく使えば肉体改造を成功させ、投球パフォーマンスの向上につなげられる。

 ただしマウンドに戻るまでの期間は、働き盛りの投手にとってあまりにも長い。メスを入れた投手たちは復帰までの日数をできるだけ短くしたいと考える傾向にあり、最近は8カ月ほどにリハビリ期間が短縮される場合もあるという。成功確率の高いとされるトミージョン手術とその後の復帰だが、あくまで人間が行うことであり、正解はないのだ。

 高橋はメスを入れた約1年後に二軍で実戦復帰したが、2018年に左肩を痛め、以降は一軍のマウンドに戻ることなく今秋、現役引退を発表した。

 取材者として残念な気持ちとともに考えたのは、復帰までのプランが早すぎたのではないかということだ。手術から半年後、胸囲が99センチから110センチ超になった高橋の姿を見て、率直にそう感じたことを覚えている。当時はまさか、痛みに悩まされたまま現役生活を終えるとは思いもしなかった。

埼玉西武ライオンズ提供

“子ども”のまま終えた現役生活

 高橋が3年間で見せた輝きは、あまりに眩しかった。もっと長い間、見ていたかった。

 だが「太く、短く」は、高橋本人が選んだ道だ。プロ野球選手として最も輝きを放っていた2015年6月、冗談を連発していたインタビュー終盤、自身の生き方についてこう話している。

「向上心を忘れたら、終わりだと思っています。だから自分、常に子どもみたいな振る舞いばかりしているんです。子どもじゃないと、そういうことってできないじゃないですか。大人になって『自分は極めた』とか思ったら、そこで終わりですし。いまだに『160km/h投げたい』とか思っていますし。いろいろ取り組んだり、たとえばもっとウエイトをしたらいいとか。まだうまくなりたいと思っていますね」

 紆余曲折だったプロ野球人生。8年という短期間に、これほど様々な経験をした投手はなかなかいないだろう。現役生活で得たものを、今後、どのような形で活かしていくのだろうか。

 日本ではトミージョン手術が低年齢化していると言われ、中学生が受けるケースも珍しくない。今年のドラフトでは東海大学の山崎伊織(巨人2位)、慶應大学の佐藤宏樹(ソフトバンクの育成1位)と同手術でリハビリ中の二人が指名された。以前なら投手の肘にメスを入れることに後ろ向きな球団も少なくなかったが、故障から復帰するための前向きな手段と見られてきた証とも考えられる。今後、山崎や佐藤のような形でプロ入りするケースは増えていくかもしれない。

 高橋は来年以降も何らかの形で西武に残りたい旨を明かしており、仮にそうなれば、現役生活での様々な経験は後進の指導にも役立つだろう。「太く、短く」の現役生活から、「太く、長く」のセカンドキャリアへ――。

 短い現役生活で最高の輝きを放った高橋だけに、そう願う者がたくさんいる。

埼玉西武ライオンズ提供

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