その日、PayPayドームの入場ゲートをくぐった先のコンコースに行列ができていた。
9月の観客数上限緩和以来、PayPayドームはそれに沿って満員の50%にあたる2万人近くまでファンが来場できるようになった。賑わいが戻りつつあるが、それでもまだ従来の半分だ。本来は4万人の来場を見込んでいる球場内の店舗に、ずらりと長い列をなす光景などはあまり見かけることがなかった。
その日にしても、他の店舗は今季見る普段と変わらない様子だった。しかし、PayPayドーム1ゲート前にある「スタ飯ラボ1」だけが明らかに異質だったのだ。しかも試合開始の1時間以上も前の出来事である。
列の先頭では、ほとんどのファンが同じものを買い求めていた。
10月23日の試合より発売となった「栗原選手のビーフ&チキンケバブサンド」だ。
略して「くりケバ」の、発売初日の様子だった。
栗原のパフォーマンスはいつからケバブにすり替わったのか
今シーズンの若鷹の出世頭と言ってもいい、栗原陵矢の初となる「選手コラボメニュー」がなぜ「ケバブ」だったのか。それは栗原が殊勲の一打を放った際にベース上などで見せる、右手で何かを捌くようにチョップをするパフォーマンスが由来となっている。その「何か」がケバブというわけだ。
いや、ちょっと待って。あれって、ケバブを捌いているのを意味するポーズだったか?
元々の取材の中では違う話を聞いていた。栗原が憧れている大リーガーのモノマネだったはずでは……。
その大リーガーというのが、パドレスのフェルナンド・タティスJr.。栗原よりも3歳下の21歳だが、2019年にメジャーデビューを果たすと84試合の出場で22本塁打と16盗塁を記録して一躍その名を轟かせた。今季も59試合で17本塁打、11盗塁をマークした。その若きスーパースターのポーズを真似たものだった。
また、今季途中から目の下を黒く塗るアイブラックが栗原のトレードマークとなった。これもタティスJr.の影響で、本来はデーゲームの太陽光のまぶしさを軽減するのが目的のはずだが、ドームでもナイターでもお構いなし。ちなみに栗原のアイブラックは自身ではなく松田宣浩が塗っており、その気分によって「今日は太め」「半月みたいに下を丸く」「両サイドを垂らそう」などと日々デザインを微妙に変化させていたようだ。そして栗原に続け、とばかりにブームがチーム内にも着実に広がっていった。
それが、いつからケバブにすり替わったの???
すっかり大人気商品となった「栗原選手のビーフ&チキンケバブサンド」。よくよく聞いてみると、地元テレビ局のRKB毎日放送がどうやら深く関わっているようだった。
なるほど、テレビの力が働いたのか。それで事実を捻じ曲げるとは何事だ!!!
というわけで、さっそく同局の中でも今回の仕掛人だと思われるUディレクターをPayPayドームで“確保”することに成功した。いざ、尋問開始!
驚きのスピードで商品化 「くりケバ」誕生秘話
――栗原選手のメニューすごいね。
Uディレクター「あはは、ありがとうございます」
――いや、笑っているけど、ちょっと待て。あれっていつから「ケバブポーズ」になったのよ。
Uディレクター「栗原選手本人がそう言っていたんですよ、インタビューの時に」
――ほんとは言わせたんじゃないの??
Uディレクター「いやいやいや。栗原選手が自分から言ったんですよ。本当ですって」
彼とは付き合いも長く、ウソを言うような男ではないのを知っている。さらに話を進めていくと、このような流れだったそうだ。