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「ケツ持ち(用心棒)はあっこだと思うよ」

 ただ、暴力団との関係だけは教えてもらえない。これはソープ嬢から聞き出した。毎回取材する女性は変えた。5回目の女性からはこう言われた。

「ああ、やっと会えたっぺ。嬉しい。あんたの話、みんなから聞いてたんだ。いい人だって。会いたいなって。暴力団の仕事もしてるんでしょ」

 ソープ嬢の仕事はかなりの重労働である。原発バブルのせいで、休み時間はほとんどなく、飯を食う暇もない。いい人とは、仕事をせずに済むいい客という意味だ。時折、部屋で一緒に飯を食った。自宅や本名、昼間の仕事も教えてもらった。

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「昼間は看護師やってんの。震災の時は大変だったわ。でもうち、誰1人辞めなかったんだ。みんな店に戻ってきた。経営者がいいんだ、ここは。優しい。すごく頑張り屋だし。ケツ持ち(用心棒)はあっこだと思うよ」

 彼女は近隣の指定団体の名前を口にした。裏は取っていないが信憑性は高い。

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原発関係のお客さんを断るソープ嬢も

 面白いことに、ソープ嬢のすべては地元出身だった。本来、こうした仕事は地元を避け、他の地域で行う女性が多い。

「1度同級生が来たことあんだわ。お互いびっくりしたけど仕事だから、ちゃんとしたよ。あんた原発行ってるんだってね。作業員、いっぱい来るよ。『こんなに給料が安いとは思わなかった。騙された』って必ず言うからわかるっぺ」

 彼女の感性が独特なのかは分からない。が、地元の人間ばかりということは、ソープランドの経営者、そしてソープ嬢たち全員が被災者ということである。

「震災翌日、電気や水道が止まっているのに、洗面器にお湯を貯めて営業した店があったみたいだけど、やっぱり評判が悪くて給湯施設を設置しようとなった。うちは4月の第2週に工事を終えて店を開けたんだわ。この辺は中央の施設から給湯され、個人の家にもボイラーがなかったんです。お風呂に入りに来てもらってるんだから、絶対にお湯が要るでしょう。オーナー、無理して資金を集め、数100万円かけてボイラーを付けたみたい。現金が用意できず、泣く泣く廃業した店も3、4軒ある。

 話を聞いてあげるのもソープ嬢の仕事だし、私は嫌じゃないけど、原発関係のお客さんを断り、常連客しか接客しない女の子もいるね。ワケを聞いたら、悪夢を思い出すからと言ってたよ。『原発事故の時は放射能が怖くって全然眠れなかった。作業員の人たちが危険な仕事をしてくれているのは分かってる。でも話を聞くと悪夢を思い出しちゃう。つい最近、やっと普段の生活を取り戻したのに、原発や放射能とか、そんな言葉を聞くだけで気分が滅入っちゃう』って言ってました」(自称28歳の女性従業員)