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2020/11/15

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

「まともなヤクザなんていねぇけど、うちの兄貴は特別なんだ」

 4度目のスナックで、彼は暴力団の仲介で現場に入っていると打ち明けた。正確に言うなら、彼の会社と上会社の間に明確なペーパーカンパニーは存在していない。契約上、両社は直結した業務関係であり、仲介料は彼の会社から元の兄貴分にバックされている。詳細は割愛する。現在進行形だからである。

「まともなヤクザなんていねぇけど、うちの兄貴は特別なんだ。本当の男なんだ。会ってみりゃ分かる。でも取材は無理だろう。今は上がうるせぇから」

 彼の兄貴分が特別なヤクザかどうかはともかく、手口としてはよくある話だった。名前だけ訊いた。とある組織の名簿に兄貴分の名前が載っていた。

 風呂の他は、夕食の時間が作業員の話を訊くチャンスだ。宿泊先の夕食は豪華で、カニや刺身などがふんだんに出され品数も豊富だった。ご飯と味噌汁は食い放題だ。作業員にだらだらと飲み続けられるのは困るからだろう、焼酎や日本酒などは頼めなかったが、ビールだけは有料で飲めた。話を訊くと、東北や北海道から来ている作業員が多く、年齢層は高い。40代、50代が中心で、20代の作業員はちらほら見かける程度だ。

 不思議なことに、話を訊いた大半が独身だった。

「結婚してたけどよ、もう10年以上前に別れた。女が浮気したんだ。仕方ねぇべ。あちこち出張って、家に帰らなかったからなぁ」(北海道から出張してきた50代の作業員)

 同僚にも独身者が多かった。妻帯者もいるが、地元に住む彼らは作業後自宅に戻ってしまうので、ゆっくり話す機会がない。

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「放射能? 関係ねえべ。被曝ならもうみんなしてるって」

 ラッキーだったのは、部屋の冷蔵庫に鍵がかかっていたことだ。ゆっくり酒を飲もうと思えば外に出るしかない。手当たり次第誘って飲みに出た。作業員のストレス解消法は、酒か博奕か女である。20歳から20年、福島の原発で働いてきたベテラン作業員が嘆く。

「もうどうしようもないっぺ。どうやって収拾付けたらいいのか、電力も東芝も、正直言えばわかんないんじゃないの。嫁さんかい? 行くなとは言わない。働かないと飯食えない。放射能? 関係ねえべ。被曝ならもうみんなしてるって。作業員だけじゃない。みんなそうだ」

 彼の見解には信憑性があった。1Fでの作業は、あくまで外堀を埋めているだけで、本格的な復旧作業は手つかずなのだ。とりあえずの冷温停止には、めどが付いている。トラブルがなければ成功するだろう。が、そのあとが問題である。巨大なドームで建屋を覆ったところで、根本的な対策にはほど遠い。

 9月、1号機の原子炉建屋対策に、東電が新兵器を開発した。鉛と鋼鉄で作られた特別装甲車で、これに乗った作業員がぎりぎりの地点まで近づき、そこから遠隔操作のロボットを使って作業をするのだ。試作品のテストは失敗した。5.5トンも重量があり、上手く走らないのだ。