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「1度原発で働いたヤツは、原発に帰ってくる」 作業員を離さない、福島1Fの“うま味”とは

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#14

2020/11/15

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

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東電やメーカーは現場の殿様だった

 たくさんの企業が参加しているため、1Fには東芝のシェルターの他、作業員の拠点がいくつかある。すぐ隣にはカバー作業員用プレハブ休憩所(竹中JV)があり、その反対側の企業センター研修棟、企業センター厚生棟にも2カ所の休憩場所がある。敷地内には正門休憩所をはじめ、野鳥の森近傍休憩所、日立・GE休憩所、海沿いには五洋建設の作業船休憩所、1号機の近くには原子炉建屋カバー工事休憩所、ヘリポート脇のコンテナハウス、旧緊対室休憩所、(汚染)水処理整備制御室・運転員休憩所、免震棟前には、2工区、3・4工区休憩所、5、6号機のサービスビル1階の休憩所は7月1日から緊急医療室として活用されるようになり、24時間態勢で医者が待機していた。私が就職したプラントメーカーより、瓦礫撤去や建物の復旧にあたっている作業員のほうが、きつい労働だったと思う。

 が、プラントメーカーの作業員たちは、こうした単純労働者を蔑視していた。自分たちが原発の中心にいるという誇りがあるからだろう。上会社の社員の1人は、敷地内で建築作業の人間をみかけるたび、「この土方が。邪魔なんだよ。どけよ」と暴言を吐いていた。背中に日立のシールを貼っている作業員をみても「おっ、敵だ。邪魔してやろうか」と冗談を飛ばしていたから、単に口が悪いのだろう。ただ、現場には厳然とした階級があった。内部資料を見せられたとき、東電と東芝には“殿”という敬称が付けられていた。実際、東電やメーカーは現場の殿様だった。

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労働時間が短く、わがままが通り、衣食住もタダ

 当時、プラントメーカーの仕事は、汚染水処理が中心だった。前述したようにまだ本丸には触れられないため、毎日の被曝量も低い。平均すると0.06ミリシーベルト程度で、実働時間が1時間に満たない日もあった。

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 被曝量が少ない上、日本のために尽力しているという誇りを持てる。1Fのすぐ近くにある広野火力発電所や福島第二原発に比べ、労働時間が短く、わがままが通り、衣食住もタダだ。Jヴィレッジで食料を配布していることは前述したが、このほか、プラントメーカーからも昼食は出される。危険に見合う額とは思えないが、どんな職種であっても、日当は最低、2割程度高く、贅沢さえしなければ、給料のすべてを使わずに済む。

 私の上会社では勤務時間の改ざんも行われていた。目撃したのは汚染水貯蔵タンク施工の安全講習が行われた時で、講習自体は午前中で終わった。事務所に戻ってくると、所長は自分の分だけ女性事務員にインスタントラーメンを作らせ、空腹の作業員からブーイングを浴びていた。帰宅できないのは、本日の講習を受け、レポートを提出しなければならないからで、それも1枚の見本を丸写しするという作業だった。2人の若い社員が答案をせっせと丸写しするのをみて、私もそれを手伝った。それも昼過ぎには終了し、所長はプラントメーカーに対する業務報告書を書き始めた。