文春オンライン

「1度原発で働いたヤツは、原発に帰ってくる」 作業員を離さない、福島1Fの“うま味”とは

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#14

2020/11/15

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

note

「どうすっぺかな。午後4時半頃にしとくか」

「お昼には終わってるのに、なぜ4時半までかかったって書くんですか?」

「馬鹿言うな。(そうしないと1日分の)金がもらえないだろ」

ADVERTISEMENT

 この上会社はプラントメーカーを変えたことがなく、その一途さが評価されていた。協力企業で構成する親睦会の会長となったこともあり、まさに蜜月関係にあった。メーカーがこうした実態を知っている可能性はある。

セシウムスイカとダチョウ狩り

 報告書が書き上がる寸前、下請け作業員の1人が冷蔵庫から凍ったスイカを取り出してきた。

「これ、4号機の脇で作ったスイカだ。3号機ではメロンを植えてたな。汚染水はあちこちにいっぱいあっかんね。それで育てた。セシウムスイカだ」

 日の当たっているアスファルトにスイカを置いて解凍した。テーブルに置いても、スイカを食べたのは取り出した本人と私だけだ。育ちが早く、すぐ収穫出来たらしい。スイカは異様に甘かった。放射能の影響なのかは判然としない。

 ダチョウ狩りに出かけたこともある。狩るといってもシューティングの道具はカメラだ。狩りには現場作業が早めに終わり、会社の事務所整理を手伝った際に行った。

©iStock.com

「大熊町の民間農場で飼育されていたダチョウが震災によって逃げだし、大熊町内をうろうろしてる」

 同僚から話を聞いたときは嘘だと思った。調べてみると、元々1Fのマスコットとしてダチョウを飼育していた時期があったと知った。ごく少量のウランから膨大なエネルギーを生み出す原発を、少ない餌で飼育出来るダチョウに重ねたためで、その後、農園の経営者が引き取ったという。避難する際、経営者が檻を開け放ったとも聞いたが、当人が見つからないので、正確な事情は不明だ。

 その後、シェルターにダチョウを追い回す上会社のリーダーの写真が貼られた。タイベックを着込んだ人間とのツーショットは、なんともシュールで作業員の爆笑を誘った。どうやら特段苦労せずとも会えるらしい。カメラと一緒にペットフードも持参した。津波によって駅舎が失われた富岡駅付近を探したが、なかなか会えなかった。

 犬や猫、牛などは頻繁に目にした。その度にペットフードを置いた。みな痩せている。かつては艶々した毛並みだったろう洋猫は、所々毛が抜け、まだら模様になっていた。

 お目当てのダチョウには、無人の住宅街で見つけた雑種犬に、餌をやっている最中に遭遇した。路地から突然現れ、我々の車を見たまま動かなかった。油断して車に置きっぱなしのカメラを取るため、ゆっくり後ずさりした。物音を立てないよう静かにドアを開けたつもりだが、ダチョウはカメラを構える前に逃げていった。かなり痩せていた。このまま野生化すれば危険と見なされ、安楽死させられるかもしれない。
 

ヤクザと原発 福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

「1度原発で働いたヤツは、原発に帰ってくる」 作業員を離さない、福島1Fの“うま味”とは

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春文庫をフォロー