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「最後の指導」と母の愛

 長久保さんが今でも忘れられないのは、リンクサイドでの愛子さまへの“最後の指導”だ。

 10年ほど前、指導中に誤って転倒し、大腿骨骨折の後遺症でリンクにあがれなくなってしまった長久保さん。愛子さまには別のコーチがいたが、スケーティングの基礎を固める大事な時期だったため、リンクサイドから練習を見守っていたという。

オリンピック大会での長久保初枝さん 提供:長久保初枝さん

 ある日、長久保さんは、愛子さまのある「クセ」に気がついた。

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「重心移動ができておらず、アウトエッジにうまく乗れていないことに気がついたんです。コーチの手前、私が口を出してよいものかどうか悩んだのですが、重心をとれないまま滑り続けると、変なクセがついてしまいます。そんな時、ちょうど愛子さまと目が合ったので、手招きしてリンクサイドにお呼びし、こうした方がいいと申し上げました」

 愛子さまは、陛下と同じようにじっと長久保さんの目を見て助言を聞き、アドバイス通りにフォームを修正されたという。

「愛子さまはきちんと理解してくださいましたが、本当はリンクの上で、実際に愛子さまの体を支えながら教えて差し上げたかった。それができなかったのは、本当に残念で、愛子さまには申し訳ないと思っております」

笑い声が聞こえてきそうな、天皇陛下(左)と秋篠宮さま(右) 提供:長久保文雄さん

 そんな長久保さんの「最後のアドバイス」は、愛子さまのお心にもきちんと届いていた。後日、雅子さまお付きの女官さんからお電話があり、「愛子にご指導くださってありがとうございました」という雅子さまからのご伝言をいただいたという。

「感激いたしました。きっと、愛子さまが雅子さまに『長久保さんから指導を受けた』とお伝えくださったのでしょう。思い切ってアドバイス差し上げてよかったと思いました」

 雅子さまの細やかな気配りに感動したという長久保さんは、こんなエピソードも教えてくれた。

 編み物が得意だった長久保さんは、愛子さまが小学生の時に、レース編みの髪飾りをプレゼントしたことがある。当時愛子さまは水色の洋服をよく着ておられたので、きっとブルーがお好きなのだろうと、ある日自分で編んだ水色のリボン型髪飾りをプレゼントしたそうだ。

「その頃愛子さまは、長い髪を両サイドに三つ編みにされていることが多かったので、お似合いになるだろうなとお作りしました」

愛子さまに差し上げた、水色の髪飾りの試作品 ©文藝春秋

 いくつも試作品を作り、一番良くできた2つを「愛子さまに差し上げてください」と雅子さまにお渡ししたところ、後日の練習で、愛子さまがその髪飾りをつけてきてくださったという。

「主人と愛子さまが準備体操をしている時に、雅子さまが『長久保さん』とお声がけくださったんです。ジェスチャーで愛子さまの髪の毛を示されたので、そちらを見ると、私が差し上げた髪飾りをつけておられました。雅子さまのお優しいお気持ちと、母としてのあたたかなお心遣いが感じられ、胸がいっぱいになりました」