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 猫塚さんも法廷に来るかもしれない。法廷で原告の私と被告・国の代理人が直接話す機会はないけれど、私には前回の経験があった。弁論が終わって法廷を出る時、被告席の横を通る。その時に一瞬、あいさつ程度なら交わすことができる。前回は「よろしくお願いします」と頭を下げたら何人かの方があいさつを返してくれた。それだ。退出間際のほんの一瞬に勝負をかけよう。

赤木さんと面談した「猫塚さん」の似顔絵。赤木さん作 ©相澤冬樹

 この日、被告席には国の代理人が10人並んでいた。マスクをつけていると、猫塚さんがいるのかよくわからない。きのう音声データがテレビで流れたことをどう思っているだろう?

 弁論では相変わらず、国側は書類が多すぎて開示手続きが間に合わないと、およそ納得できない理由を繰り広げる。それもわかっているからまあいい。

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 弁論は15分ほどで終わった。私は法廷を出るため被告席の横を通り過ぎる瞬間、国の代理人の人たちに声をかけて頭を下げた。

「きょうはありがとうございました」

 すると相手の方たちも「ありがとうございました」と返してくれた。少し人間らしいやり取りができた気がした。

俊夫さんのマイナンバーカード ©相澤冬樹

私はあの人たち個人を責めたいわけではない

 猫塚さんも、他の国の代理人の人たちも、好き好んでゼロ回答を繰り返しているわけではないだろう。彼らが何も言わないのは、何も言わせてもらえない。「何も言ってはならない」と言われているからだろう。組織に、財務省に、近畿財務局に。

 夫の上司だった池田靖さん。夫が最も信頼していた職場の仲間だった。森友事件の発端になった国有地の値引き売却も、その経緯を記した公文書の改ざんも、どちらにも深く関与して詳しく知っているはずなのに、真相を明らかにしようとしない。改ざんを指示した佐川さんだってそうだ。

 私はあの人たち個人を責めたいわけではない。夫はなぜ命を絶たねばならなかったのか、真実が知りたいだけ。だから真実を知っている人に本当のことを話してほしいだけなのだ。

 私が開示を求めている文書を、今もせっせと墨塗りしている人、墨塗りさせられている人がいるはずだ。夫が不本意な公文書改ざんをさせられたように。私は心の中でつぶやいた。

「あなたも猫塚さんも、夫のように追い詰められませんように。それを祈っています」

 ……でも、けさ私の心を一番騒がせたのは別のこと。裁判に行くのに何か形見を身に付けようと夫のベルトを締めたら……穴が同じ場所でサイズがピッタリだった。どうして? やつれるほど大変な思いをしているのに。これは少し、いや、かなりショックだったけど、夫が守ってくれていると思うことにしよう。私はいつも前向きに考える。そうでないと財務省のような巨大組織と闘うことはできない。

俊夫さんのベルトを締めた赤木雅子さん ©相澤冬樹