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2020/11/14

――ベイスターズ時代、選手とはどんなことを話しましたか?

久保 ひとりの選手と仲良くなることは意識的に避けてましたね。同じ人と同じ時間を長く過ごすと、仲良くはなりますけど、人間って楽したがるので、その人とばかりいたくなる。その輪の外側に出たくなくなる。

――派閥ってそうやって出来ていくんでしょうね。

久保 そう。だから特別に誰かと仲いいわけではなかったですけど……若い選手とはよく接してましたね。

――若手選手にアドバイスを求められたり?

久保 もちろん年齢的にも、そういうのはありましたよ。三嶋も色々聞いてきたし、あと山口俊も。俊はピッチングが大胆そうにみえて、意外と色んなことに気を遣うタイプなので。

――繊細そうです。

久保 繊細ですけどすぐ忘れたりするんですよ(笑)。調子悪くなるとやってきてガーッと色々聞いてくるんだけど、いい時になったらたぶん忘れてやってない(笑)。人って困ったら色々対策を考えるんですけど、困ってない時って意外と足元みえてなかったり。

――私もあります……。

久保 悪くなった時だけあら探しをする。調子いい時こそあら探ししたらいいのになって僕はすごく思ってたんです。逆に調子悪い時ほど、悪いなりにいいところを探す。こんなに調子悪かったのに、これぐらい立て直すことができた、とか。頑張ったところは自分で認めた方がいいと思いますし。

――三嶋投手とはどんなことを話されたんですか。

久保 三嶋……あいつは表に出さないですね。めっちゃ内に秘めてますわ。

――今年はすごい活躍をされました。

久保 僕おる時、開幕に7、8点いきなりとられたりして、悩んでましたね。1年目はよかったから余計かな。結局自分がいてる間は、能力は高いけどそんなにバリバリという感じではなかった。

――三嶋投手にはどういうアドバイスを?

久保 三嶋の場合、私生活のメンタルの部分とかで結構話はしたんです。あいつは……やっぱりめっちゃ歯がゆかったと思う。だけど歯がゆい感じは僕にも隠してました。話はするんだけど、愚痴る言い方じゃないんですよ、彼の場合は。吐き出せる中にも気を遣って吐き出してたんですよね、それはすごいなと思った。そして、その正反対だったのが井納君ですね。

――井納投手は……。

久保 もうめちゃめちゃ、喜怒哀楽全部出ますし。お前喜怒哀楽出るほどそんな頑張ってないやんかとか(笑)。ほんまにもう3歳児相手にしてるような感じでしたよ。悲しかったら泣く、楽しかったらはしゃぐ。そんな感じでしたね。

――全てが顔に出る(笑)。

久保 嫌なことからは背く。性格的に苦手なコーチとかおったらすぐ逃げる。ほんま3歳児みてる感じで面白かった。本人は感覚とか感性で喋ってるからその場に合わないこともボンと言ってしまったりするんです。そこにイライラする人もいましたけど、僕はめっちゃ面白かった。動物園みたいで。

「クビと言われた時に『ありがとうございます』って握手したんですよ」

――以前何かの記事で久保さんが「MISIAの『Everything』を原曲キーで歌う」というのを読みました。「原曲キーで歌わなあかんやろ」と、果敢に挑んだという。

久保 あーありましたね(笑)。知り合いの記者とカラオケに行った時、いろんな年のヒット曲をみんなで歌ってて、僕の時にMISIAがきた。そんで、誰かが歌えそうなキーに下げてくれたんですよ。でもそんなんもう負けた気になるじゃないですか。

――負けた気(笑)。

久保 歌える歌えない、うまい下手じゃないんです。そんなのもう心がはじめから負けてる。この場の雰囲気は、要はどれだけ自分が挑戦できるか。それなのにみんなとりつくろったり、自分のできる範囲でやろうとするんです。誰もそんなん求めてない。

――このエピソードは久保さんが久保さんであることを、ものすごく象徴しているなと思ったんです。

久保 そうかもしれないです。みんなできなさそうなことやカッコ悪いことは避けるんですよね。僕に言わせれば、そんなんやったことないねんからできるわけないやんって。

――たしかにやる前から「間違ったら」「失敗したら」と考えがちです。

久保 めっちゃ言われますよ。「よくこんなことやりますね」とか「恥ずかしくないんですか」とか。

――たとえば「元プロ野球選手なのに、今なぜ何もしてないの?」みたいな。

久保 そう、自分の考え方や行動を制限するような肩書きなら、僕の人生にとってはマイナスでしかない。そういうものはさっさと捨ててしまった方がいい。野球のキャリアも邪魔なんです、本音を言えば邪魔なんです。でもみんなそれに固執したりするんですよ。

――それはプロ野球選手のみならず、広く一般社会でもそうですね。

久保 嘘ついてでも「肩書き」を作ろうとする人もいるぐらい、たぶん世間では大事にされていることなんでしょうけども。僕の中での価値はゼロ。過去のものなんですよね。僕の「元プロ野球選手」という肩書きも、過去の自分が作った実績であって、今の自分の評価には値しないじゃないですか。

――2017年に久保さんはベイスターズを退団されましたが、「戦力外」「構想外」という話を聞いた時、どんなことを考えましたか。

久保 これ、言っていいんかわからないですけども……クビと言われた時に僕、パッと立ち上がって「ありがとうございます」って握手したんですよ。

――握手。

久保 ずっと今までプロ野球をやるために色んな事を我慢してきた。これでやっと自分の好きなことができるって。

――つらい気持ちよりも?

久保 プロ野球選手としてクビと言われるのは、すごく辛いことやと思う。でも同時に今まで我慢してたことが自由にできるって思った瞬間でもありました。

 自分を必要としてもらえる間は、自分からやめることは絶対にせんとこうと思っていたんです。あの日球団に呼ばれた時は、もしかしたらクビになるんじゃないかなというドキドキと、やっと新しいこと始められるでというドキドキが、両方混じり合っていた。たぶんこんなやつおれへんと思うんですけど。家に帰って嫁さんに話してる時、「今がほんま楽しそう」って言われたのを覚えてますわ。

――今、楽しいですか?

久保 楽しいですね。メキシコにいた時は世界遺産を巡って、世界には自分の知らないことがこんなにたくさんあるんだと。その知らないことの中で自分が興味を持つものが見つかればもっと面白いじゃないですか。自分の価値観をガラッと変えてくれるような体験を、これからも求めていくんだろうなと思います。

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