「あの時はほんと、負ける気がしなかったよね」

 ジュウジュウとホルモンの焼ける音が響く中、三浦大輔さんはそう昔を振り返った。場所は東京・六本木の焼肉店。元ベイスターズの選手が営む知る人ぞ知るお店である。

 2018年の春、ある雑誌で“最強の肉食”という特集を担当した筆者は、取材候補として真っ先に三浦大輔さんの名を挙げた。三浦さんと肉と言えばファンの間では“ミウラビーフ”が有名だ。それは三浦番長に焼肉やステーキをご馳走してもらった選手は次の試合で活躍するという、一種のゲン担ぎ。その食宴は“ミウラビーフ会”と呼ばれ、『プロ野球ニュース』で嶺井博希、入団したばかりの山崎康晃を交えて特集が組まれたこともある。

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 現役引退後、評論家として活動されていた時期でもあり、三浦さんに取材をオファーすると快くOKを貰った。店の前で待っていると、向こうから現れたのは一目でそれとわかる大柄の男性。リーゼントはビシっと決まり、白Tシャツとジャケット、ジーンズ姿が均整のとれたボディに似合っていた。

三浦大輔 ©文藝春秋

「初めて連れて行ってもらった焼肉は今でも忘れられない」

「引退した直後は生活がガラッと変わりましたから、やっぱり太りましたよ」

 挨拶ついでに現役時代と体型が変わらないですね、と問いかけると三浦さんは謙遜しつつそう答えた。

「でもイベントのゲストでユニフォーム姿を披露することもあるし、このままじゃまずいと。だから最近は仕事で球場に行くと、必ずナイターの試合前に夕飯を済ませるんです。試合が終わったらまっすぐ帰宅して、とりあえず近所を走る。後は風呂に入って歯磨きしてさっさと寝る。要は空腹をランニングと風呂と歯磨きでごまかしているんだけど(笑)、これが腹を引っ込めるのにいいんですよ」

 そのダイエット法は実に理にかなっていた。とはいえ仕事後の空腹を我慢するのはかなりの精神力を要する。

「じゃあ、いつもの通りに注文しましょうか。この店に来たらタンは絶対頼むんです。あとはサーロインステーキとロース、あとサラダの大盛りと……」

 席につき、すらすらとメニューを読み上げる三浦さん。基本的に後輩選手と連れ立って来る店だから、必然的にカメラ映えするくらいの皿数になるのだ。

「撮影が済んだら皆さんも食べられますよね? 今日は昼に別の取材があって、中華街でたらふく食べてきたばっかりで」

 こちらを気遣いながらトングを手に肉を焼き、カメラマンの要望に応えて目線を向ける。お腹いっぱい、と言いつつもいい具合に焼けたのを次々と口に運ぶさまは何とも気持ちがよく、現役時代のテンポのいいピッチングを彷彿とさせた。さすがは現役時代、スピードアップ賞に2度輝いただけのことはある。三浦さんがトイレに立つと同行した編集者はすかさず「やっぱり野球選手は食べっぷりが違うね」と囁いた。

現役時代 ©文藝春秋

「ホエールズに入って上京して、初めて連れて行ってもらった焼肉は今でも忘れられないですよ。こんなブ厚いステーキ肉とか、初めて見るハラミとか。自分も稼げるようになればこんな肉がいつでも食べられるんだって。そういえば若い頃はサーロイン500g、ヒレ500g。毎回1kgは普通に平らげていたなあ」

 30代に入りさすがにセーブするようになったが、それでも大抵、若手より三浦さんの方が食べる量は多かったという。三浦さんが25年間も現役を続けられた一端は胃袋の強靭さにもあるのだろう。だが、そんな三浦さんでも「ゴウ」こと筒香嘉智の食欲には舌を巻いた。

「肉もそうだけど、大盛りご飯を何杯もサラッと食べられる。あのゴウの姿を見て“ああ、食べるのも才能やなあ”と改めて思いましたね」

 三浦さんは他にもいろんな話をしてくれた。春の宜野湾キャンプではアグー豚のしゃぶしゃぶが楽しみなこと。肘を故障した時は少しでも良くなるように、とコラーゲンの多いスジ煮込みを摂るようになったこと……。取材は無事終了し、最後に来た皿はホルモン類。三浦さんはそれを1個ずつ焼いていた。