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2020/11/17

「だからもっと頑張って引退試合が出来るような選手になります!」

 ここで挙げたように、僕には上田に対して二つの「恩義」がある。感謝してもしきれない。もちろん、一ファンとしても、上記のサヨナラホームランだけではなく、15年には相手エラーによるサヨナラ勝利の立役者となり、「僕でいいんですか?」とお立ち台に上がったことも忘れられない。あるいは、記憶に新しい今季、9月16日の横浜DeNAベイスターズ戦ではフェンスに激突しながら好捕して、チームに勝利を導いたことも印象深い。あれは今季のベストシーンの一つだったなぁ。

 しかし、もう一人冷静な自分もいる。前述した年齢、そして成績を考えると、「戦力外通告」ははるか遠くの夢幻ではなく、むしろ常に隣り合わせの存在だったように思えるのだ。上田の退団が決まった直後、SNS上では「#上田剛史の戦力外に抗議します」というハッシュタグが作られ、多くのファンが彼との別れを惜しんだ。

 個人的には、政治家の汚職や不正を糾すならともかく、外部からはうかがい知ることのできない球団の構想に対して、口を出すのはいかがなものだろうかという思いはある。それでも、ファンの純粋な気持ちも痛いほど理解できる。上田にまつわる「知人男性」「上田集中」「上田新喜劇」を「ファンサービスの一環」ととらえるか、「悪ふざけ」ととらえるかで、彼の見方、評価は大きく変わってくる。

「ムードメーカー」と評価するファンがいる一方で、「野球に集中しろ」と言いたくなるファンがいるのもよくわかる。なぜなら、僕自身がその両面の感情を持っているからだ。自身のSNSにおいて、ファンから「こんなことしてないで練習しろ。早く引退しろ」と強烈な言葉を浴びせかけられたことがある。その際に上田はこんな返答を残している。

 練習は毎日してます! 僕は引退って終わり方したいです。でも今の成績じゃ戦力外って終わりになっちゃう! だからもっと頑張って引退試合が出来るような選手になります! それまでは辞めれません!

 上田は自覚していたのだ。迫りくる「そのとき」を察知していたのだ。これまでの成績を考えれば、今回の通告は特別異例なことではないのかもしれない。その一方では、「プレー以外の存在感」を重視した上で、「守備固め」「代打、代走要員」としての戦力面での評価もしたいという気持ちもある。

 だからこそ、「この選手をどのように評価すればいいのか、僕はずっとわからなかった」と冒頭で書いたのだ。そして、その答えは今も出ていない。しかし、長年にわたってチームを明るくし、ファンに多くの話題を振りまいてくれた上田がチームを去るのは揺るがしようのない現実だ。今後の彼がどんな道を歩むのか、今はまだわからない。ひとまず「お疲れさまでした」、そして「ありがとうございました」という言葉を贈りたい。「さようなら」の言葉は、まだしばらく先にとっておきたいのだ。今までどうも、ありがとう。

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