今季最終戦だ。仕事が手につかない。雨で流れたZOZOマリンの試合が9日(月)に組まれていた。日本シリーズでもないのに11月のナイターだ。僕は友人の放送作家、近澤浩和さんに頼んで内野指定C席(上層階)を取ってもらった。近澤さんはプレーボール間際になりそうだというので、僕ひとりで海浜幕張駅へ降り立つ。16時開場と同時に入って、バッティング練習から見るつもりだ。開幕が遅れ、開幕できるのかどうかヤキモキし、やっと始まっても無観客だったり入場制限がついたりした2020年シーズン。ファイターズは2年連続5位とさっぱり振るわなかった。でも、名残惜しいんだよ。開場時刻より大幅に早く、15時に海浜幕張駅前に立っている。

今季最終戦。15時に海浜幕張に着いてしまった。 ©えのきどいちろう

野球が終わるのはたまらなく寂しい

 プレナ幕張の吉野家の角を曲がって、あとは球場へ続く一本道。歩きながら昨日、この道をロッテファンと西武ファンが帰ってきたんだなぁと思う。パ・リーグCS争いの大一番、ロッテvs西武の直接対決だった。ロッテは勝てば2位確定。西武が勝てばCS出場権の行方は今日の最終戦までもつれるところだった。ZOZOマリンのチケットを押さえるとき、近澤さんと「もしかしたら球史に残る試合になるかもねー」と言っていた。球史に残る試合にはならなかった。前日、ロッテが直接対決で勝ち切ったのだ。今、僕が歩いてる道を昨日はロッテファンが雲の上を歩いてる感じでフワフワ戻ってきただろう。あそこに見えてる歩道橋を西武ファンが胸にぽっかり風穴を開けて歩いてきただろう。

 僕は昨夜見た「も⚾」さんのツイートを思い出した。「も⚾」さんは熱心な西武ファンだ。そして昨日はすべてを失った。

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心にしみる「も⚾️さん」のツイート。どこの球団ファンであろうと、これ読んで身につまされない人はいない。

 

 僕は家でM-L戦を見て、試合の後「も⚾」さんのツイートにちょっと泣けてきたんだ。負けて野球が終わる。野球が終わるのはたまらなく寂しいよ。「も⚾」さんも幽霊のようにあの歩道橋を戻ってきただろう。僕と近澤さんは今夜、どんな足取りであの歩道橋を渡るだろう。たぶんまわりにロッテファンが大勢いると思うけど、ロッテファンとは意味が違うんだ。彼らは週末、博多でビッグチャレンジだ。僕らだけ野球が終わってしまう。

 球場にはやっぱり早く着き過ぎて、僕は幕張の浜に出た。海は信じられないほど美しかった。この浜にイラブクラゲが出たんだっけ。命名者の大沢親分も、当の伊良部秀輝も鬼籍に入ってしまった。開場前には開店を待つパチンコ客のように列に並んだ。ここに並んでる人は野球が好きだなぁ。みんな野球が終わるのがいやなんだなぁ。

早く球場に着きすぎて、幕張の浜に出たのだ。 ©えのきどいちろう

『中田二冠』を見るために最終戦へ

 席に着いて試合前練習に見入っていたら近澤さんがやってきた。自然と中田翔の話になる。中田は打点王をほぼ手中におさめ、この試合であと1本ホームランが出れば楽天・浅村に並び二冠達成だ。もちろんその瞬間を見るつもりで僕らはやってきた。

中田翔

「あのさ、将棋の藤井聡太って『藤井二冠』って呼ばれるでしょ」
「あ、王位と棋聖の2タイトルでしたっけ。言いますね、藤井二冠」
「このオフは中田を『中田二冠』って呼びたいね」
「おー、中田二冠、いい響きですね。打点だけのときはどう呼ぶんですか?」
「さぁ、そこなんだよね。ひとつの場合『渡辺名人』『豊島竜王』でしょ」
「名前とタイトル名ですね」
「中田打点?」
「ひねってもせいぜい『中田点王』ですかね」

 そういう意味でも中田には二冠を獲らせたいと衆議一決した。その中田だが、初回いきなり1死1、3塁のチャンスで打順がまわり、先制タイムリーを放つ。いい歳したおっさんが2人、「いや、打点かよ!」「ホームランがいいのにぃ!」とぶうぶう言う。打点挙げて文句言われちゃ中田もたまらんなぁ。これで108打点。楽天・浅村は既に全日程を終えているから追ってくる者がいない。

 いや、僕らは次の打席もその次も中田に盛大な拍手を送って応援したんだけどね、ホームランが出ないヒットも出ない。代わりに清水優心が3打数2安打3打点(1ホームラン)の大活躍で、もちろん「いや、清水かよ!」「中田がいいのにぃ!」と軽口を叩かれた。清水は今年、ベンチで悔し泣きするなど、色々あったシーズンだ。最後の最後にこんなスカッとする活躍ができて本当によかったと思う。