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札幌ドームから始まった? 「3ボール応援拍手」が呼んだ共感

文春野球コラム 日本シリーズ2020

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 そうしたら06年、SHINJO劇場で日本一の頃は球場全体に広がっていた。散発的に江尻慎太郎が受けていた拍手は確固たる「応援スタイル」に変わっていた。「3ボール応援拍手」が潮騒みたいに広がる。拍手が雄弁に語る。なんもなんも。ここで踏ん張れば大丈夫だ。1人じゃないぞ、みんなだぞ。拍手にそういう思いが乗っている。

 これはすごくいいんじゃないだろうか。そのときパッと連想したのは負傷した選手に送る拍手だった。あれは子どもの頃、何だろうなぁと不思議だった。負傷した選手がいったんベンチに下がり、治療の後、元気にグラウンドに戻ってきたとする。これは拍手なのだ。よくわかる。大したことなくてよかった、がんばれよー、という意味だろう。だけど負傷した選手がタンカで運ばれたり、誰かの肩を借りて退場していくような、あぁ、これはおおごとだなぁというときも観客は拍手を送る。

「激励」の拍手というけれど、グラウンドに戻れないからがんばりたくてもがんばれないのだ。もうがんばれなさそうな選手に「激励」の拍手を送る。そこが子どもの頃、不思議でしょうがなかった。

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 今、考えれば「よくがんばったなぁ」というねぎらいである。それからやっぱり「1人じゃないぞ」が入ってる。熟語で言えば「共感」というのに近接している。「(3ボールで)窮地に立った選手」「負傷した選手」に観客が共鳴し共感する。ひとかけらの痛みを分かつ。

規制されて拍手しかできなかったからそこに心を乗せた

 移転したての頃、僕も色んな人に言われた。札幌ドームの拍手はおかしいんじゃないか。選手はどう思ってるだろう。やりにくいんじゃないか。その都度、僕は「選手には伝わる」と断言した。伝わらないわけないじゃん。あれは心が乗ってるからね。

「3ボール応援拍手」「カウント不利応援拍手」は2020年の野球シーンを席巻した。一説によるとカープも数年前からやってたらしいけど、僕はセ・リーグが不案内なのでよくわからない。でも、ホントに今年は色んな球場で激励の拍手を耳にした。パ・リーグCSでロッテ澤村拓一がストライク入らなくなったとき、日本シリーズでソフトバンク森唯斗にストライク入らなくなったとき、みんな拍手を送った。規制されて拍手しかできなかったからそこに心を乗せた。

 それは医療従事者に拍手を送ったのに似ている。世界中の人が拍手しかできないからせめてものこと、心を乗せた。痛みを分かち合う「共感」と「感謝」の拍手を送った。

 札幌ドームのファンは別にどこが発祥でも、誰が最初にやってもどうでもいいんじゃないかと思う。僕は早くコロナがおさまって応援制限が撤廃され、世間から札幌ドームの拍手ちょっと変だよねと言われるくらいでちょうどいいと思う。

 3ボールの江尻慎太郎に拍手を送った女性はそんなこと気にもしないだろう。ただ3ボールはまずいと思っているのだ。そして3ボールは実際にめっちゃまずい。

 2020年シーズン、みなさんおつかれ様。ホントに大変なシーズンだった。野球があるのが救いだった。自分の不安より、3ボールはまずいって思えるからね。野球を応援しているから生きていけた。もう早くも野球が恋しいね。来春、また球場で逢おうよ。

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